その119 自然治癒力を発揮させる上で大切な、呼吸と手当てと言葉

綜醫學における治療の基本は、自然治癒力を働かせるところにあります。自然治癒力とは、生体に元来備わっている、病気を治したり健康を保ったりする能力のことです。自然良能と呼ばれることもあり、免疫力もその中に含まれます。

この自然治癒力を重んずる人の中に、西洋医学が処方する薬を一切拒否する人がいますが、綜醫學は「痛み止め薬」や「痒み止め薬」などを頭ごなしに否定するものではありません。それらを用いることで一旦痛みや痒みを軽減させれば、精神が安定し睡眠が深まります。気持ちが落ち着き、よく眠れるようになれば、自然治癒力が働き易くなって快方へ向かうことになるのです。

さて、自然治癒力を発揮させる上で大切な事に、「呼吸」と「手当て」と「言葉」があります。

呼吸には、「吐く息」と「吸う息」と「止める息」があります。吐く息(呼気)を強めますと、副交感神経を刺激することになって身体が弛緩して心が和らぎます。たとえば座禅や瞑想のときは、ゆっくりした呼吸を行い、吸う息よりも吐く息のほうを長くすることで気持ちを落ち着かせます。

息が長いということ、それを長息(ながいき)といい、長息は長生きに通じます。せかせかした呼吸よりも、ゆったりした呼吸をしている人のほうが長生きするということを、昔の人は経験的に知っていたのでしょう。

祝詞や御経を上げるときや、歌を歌ったり詩吟を吟じたりするときも、吐く息が長くなりますから健康にプラスとなります。笑いの呼吸も、吐く息が長いから同様です(笑いは祓い)。

一方、吸う息(吸気)を強めますと、交感神経を刺激することになって心身が緊張し、心は強張(こわば)ります。たとえば驚いたときや、怒って怒鳴ろうとするとき、悲しくて泣き出そうとするときなどは、まず息を強く吸っています。肩と胸で息を強く吸った直後に、ビックリした顔になり、声を荒げて怒り、しゃくり上げて泣き出すことになるのです。

吐く息と吸う息、これらはどちらも大事です。健康に良いのは、吐く息を強めて長息するほうであることは勿論ですが、吸う息もしっかりさせないと、気が緩んだままとなってしまいかねません。

基本的に呼気を長くしつつも、腰と腹で短く強く吸気することも忘れないことです。長呼気と短吸気の組み合わせによって、適度な落ち着きと共に必要な緊張感を起こし、心身のバランスを取ることが大事だと思います。

歌うときや吟ずるときが、まさにそれです。発声するときは息を長く吐いていますが、息継ぎのときに短く強く吸気しています。そのメリハリによって歌や詩吟が上手くなり、自然治癒力が働くことにもなるわけです。

止める息(止息)は、集中力を高めます。何時だろうと時計を見るとき、縫い針に糸を通そうとするとき、狙いを定めてダーツを投げようとするときなど、何かに集中しようとするときは必ず息を止めます。呼吸には、吸う息と止める息しかないと思われがちですが、この止息も重要な呼吸の一つです。

それから、手当てについてです。手当ては、文字通り手を当てて治療することです。手の知覚や運動を司る中枢神経は、脳の中でとても広い領域を占めており、足などとは比べものになりません。だから、手にはとても大きな働きが秘められているのです。先述の通り密教では、手で印を組むことで神秘的な力を発揮させますが、手が偉大な力を持っているということが前提になっているのでしょう。

確かに手からは、何らかのエネルギーが出ているものと思われます。それがオーラや「氣」なのか、一種の電磁波なのかはともかく、体のどこかが辛いときに誰かに手を当てて貰うと本当に良く効きます。

もう一つが言葉の力です。言葉によって症状が好転したり悪化したりすることは、誰でも経験するところでしょう。

いい加減な「励まし言葉」を無責任に口にするのは問題ですが、権威ある人から「大丈夫、心配ないから安心して下さい」と言われて救われることも事実です。言葉に念が込められていれば言霊となり、その霊力で自然治癒力が高まって治癒へ向かうことになるのです。(続く)