人が育つには時間がかかる

下記は、4月4日(土)の松下政経塾・第36期生入塾式で述べた祝辞で、松下政経塾「マンスリーレポート」4月号に掲載されました。
なお、「連載」は一回休みとさせて頂きます。

◆人が育つには時間がかかる

新入塾生の諸君、本日は入塾おめでとう。“松下政経塾ブーム”が去ったと言われる、今このときに入塾される皆さんは本物だ。塾の知名度に依存するような入塾希望者とは全然違うのであり、君たちに心から敬意を表する。

決意表明は、力が入り、具体的であり、とても良かった。これからの成長が本当に楽しみだ。私は1期生であり君たちとは年齢差もあるが、日本を変え世界を救うということにおいて、向かう方向は同じである。

親御さんは今、嬉しさと心配が交錯していらっしゃるはず。もっと普通の道を歩んで欲しいという願いもあったに違いない。だが一家一族の中に、一人くらい天下を背負うくらいの人間がいていい。でないと、一族に勢いが起こらない。長い目で見て、家族の繁栄にもつながるはずだ。その覚悟を据えて頂くところに、本日お運び頂いた意味があると思う。

諸君にお願いがある。それは、共に松下幸之助塾主の弟子になって頂きたいということだ。皆さんにとって、平成元年に亡くなられた塾主は「昔の人」だろう。創立者である以上、その考えを一応は学ばねばならないという程度の思いでいるとしても最初は仕方あるまい。

松下塾主は昭和の大思想家だ。その思想は、あらゆる分野の基本的理念となるほどの「巨大な器」である。私自身、悩んだり困ったりしたときに、それを打開するヒントを松下塾主の思想から頂いてきた。新入塾生7名の皆さんも、きっと同様の体験をすることだろう。

なにも松下塾主の信者になれと言うのではない。時代の変化に対応させていく柔軟性も失ってはならないが、そもそも松下政経塾は、松下幸之助塾主の思いを原点とし、その思想を基本軸としてまとまっていく塾であるということを魂に受け止めて頂きたいのである。

真の後継者というものは、創業者の存命中には出てこず、ずっと後になってから現れることがよくある。孔子の後継者は孟子であり、「孔孟の教え」という言葉があるくらい並び称されている。だが、孟子が現れたのは孔子の死後百年経ってからだった。偉大な孔子を継げるほどの資質を持った人物の登場は、百年待たねばならなかったのだ。

また、松下村塾を主宰した吉田松陰先生の「思想の師」は山鹿素行だが、素行は江戸時代初期の大学者だ。素行の教えである山鹿兵学を、変革期の政治に実践する弟子は、遙かなる時間を超えて幕末に現れたのであった。

27年前に逝去した人と思えば「過去の人」だが、時間を超越して「本日弟子となった」ということを腹に据えれば、皆さんの中から孔子にとっての孟子、山鹿素行にとっての吉田松陰が育つことになるはずだ。そのことを松下塾主は、今も待ち望んでいるに違いない。

人が育つには、やはり時間がかかる。指導者の育成ともなれば尚更だ。何百人も集め、数回の講習会をやって済ますようなやり方で、人物が生まれるはずがない。少数精鋭で、4年間辛抱強く切磋琢磨し合うという松下政経塾流の志士人物育成法は、今後益々世の中から必要とされるに違いない。功を焦らず、素直に学びを深め、人間の基本を養っていけば、世間が諸君を放っておくはずがない。本塾が成功するのは、いよいよこれからである。