No.45 愚直に一つのことを貫けば、心身が統一され腹が据わっていく

相手にしつつも相手にしない

老子は、死地をすり抜けられる柔弱さの重要性を教えています。相手にしつつも相手にしないといった、しなやかな態度です。いちいち挑発に乗って、どうでもいい相手に絡まれているようではいけません。

それは、逃げるのではなく、流して避けているのです。言い争いなどは、まず相手に言いたいだけ言わせ、相手が疲れ切った頃合いを見計らって、今度は思う存分言い返してやるといいと教えたのは勝海舟でした。幕末維新期が生んだ傑物の一人であった勝も、道家の思想が教える基本をよく体得していました。

隙を無くすことの大切さは、国家の外交でも同じことです。攻め難(にく)い国、占領し難い国と思わせること肝要です。それには、防衛力の整備はもとより、政治家などのリーダー層に覚悟と胆識が備わっていることと、国民に愛国心と団結力があることが不可欠となります。

人を騙す話には、必ずからくりがある

それから、いろいろな意味で欲をかき過ぎないことも、隙を作らない上で重要な心得となります。勝とう勝とうという欲が強いと、どうしても重心が上がりますから、どこかに隙が出来、却って負けてしまうことになります。

格好良く勝ちたいと思うのも、やはり欲です。要は、相手に負けなければいいのです。もっと言えば、こちらは自然体のままでいながら、挑みかかってくる相手が、いつの間にか自然にいなくなってしまうというのが、道家の達人のあり方です。

あるいは、人に騙されやすいという隙も、欲のかき過ぎが元になっている場合がよくあります。欲深でいると、これも意識の重心が上がって、心が素直さを失ってしまいます。

人を騙す話には、必ずからくりがあります。「甘い話」の内容の、8割から9割までは本当のことですが、最後の1~2割が嘘になっているのです。

淡々とした自然体でいれば、その嘘に気付くことで騙されずに済みますが、欲が深いと、そのからくりに気付けず、うっかり引っかかってしまうのです。
変に勿体振っていたり、核心の部分になるほど曖昧になったりする話には、特に気を付けましょう。

最初から自信のある人なんていない

若い人たちのために心得をもう一つ。隙を無くそうと言っても、いきなり達人の境地に到るのは大変なことです。初心者としては、何か一つ、自信を持てることを身に付けるといいでしょう。武道やスポーツ、茶道や華道などの稽古事、学問・思想など、どんな分野でもいいです。

これなら人に負けない、こうなったら相手に勝てるという得意分野を一心に修めていけば、自分の中に軸になるものが出来てまいります。それによって心中に気迫が生じ、生地にどっしりと足を踏みしめることが可能になるのです。当然、死地から離れることになります。

そもそも、最初から自信のある人なんていません。愚直に一つのことを貫いていく内に、心身が統一され腹が据わっていくのです。そして冒し難い雰囲気が醸し出されていくというわけです。(続く)