No.58 生き残るための基本は、足元の深いところに眠っている

人間は、目に見えない根を張っている

続いて、天地自然の原理である「道」が郷里に働いた場合です。郷里には、それぞれの気候風土というものがあります。山には山の、海には海の、寒いところには寒いところの、暑いところには暑いところの自然に順応した生活があるのです。それらの風土に合わせた暮らしをするのが、「道を郷里に修める」姿ということになります。

気候風土との融合は、食生活に顕著に現れます。寒い地方では獣の肉が体を暖めてくれますし、暑い地方では果物が水分補給に役立つと共に体を冷やしてくれます。人間は植物のように直接根を張って生きているわけではありませんが、暮らしている場所の食べ物を頂くことによって、目には見えない根を張っていると言えます。

この身体と土地は別物ではないということを、身土不二と言います。作物を育てる場合、身土不二に適うかどうかを第一に考慮しなければなりません。

多様性は、全体の生命力を高めるための基盤

建築もそうです。昔の人は、気温や湿度、風の吹き方などを考えつつ、その土地に相応しい建物を創ってきました。

そうして「道を郷里に修める」ことによって育まれるのが、その風土ゆえの文化や言語の多様性、あるいは人情の豊かさです。多様性は全体の生命力を高めるための基盤ですが、現代文明はあまりにも効率性や合理性を優先し過ぎました。便利さ第一によって、あらゆるものが一元化され、その故郷ゆえの個性というものが希薄になってしまったのです。

一元化は進歩のスピードを速める反面、世界全体、日本全体を同時に崩壊させてしまう危機を招きます。多様な中のどれかが生き残るというリスク分散の機能が働かず、ダメになるときは一気に全部がダメになってしまうのです。

郷里が生き残るための基本は、足元の深いところに眠っています。もっと地域の原点を掘り起こしましょう。地域の特色は、その地域が持つ一番の財産です。欧米の物真似ばかり、東京のコピーばかりを求めることなく、もっと故郷の原点を見直したいものです。

先祖の努力によって培われた歴史的伝統や、文化的遺産を守ることにこそ、「長久」つまり長く久しく生活が続いていくことの基本があります。そこに人と自然の共生文明はもとより、先祖と我々を時間軸でつないだ共生文明を創造していく基本があるはずです。(続く)