No.59 なぜ人は国をつくったのか

共感し合える仲間がいるから幸せを味わえる

さらに「道」が国に働いた場合はどうでしょうか。「之を国に修めれば、その徳はすなわち豊かになる」と老子は説きました。

そもそも、なぜ人は国をつくったのか。当然のことながら、それは進歩と幸福のためです。一人では出来ない仕事も、仲間がいれば前に進められます。また、人は一人では生きられません。生活を共にし、喜びも悲しみも共有出来る仲間がいてこそ、我々は幸せを掴んでいけます。その大きな単位が国家というわけです。

その際、言語や文化、歴史や伝統、信仰や習慣などが同じか、もしくは近い者同士で共同体を形成するのが、自然(道)に適った姿となります。同じ言語でもって共通の歴史や伝統に感動し、自分が属する集団に愛着と誇りを持てるようになれば、より深い幸福を感じられるはずです。

生命体の免疫機能、国家の防衛機能

かつて非武装中立論というものがあって、武力放棄が理想とされた時期がありました。敵が攻めてきたら、抵抗しないで降参するのが一番いいという考え方です。昨今の緊迫する世界情勢の中にあって、流石(さすが)にそういう空想的な平和論を口にする人は少なくなりました。

国家に防衛力が必要かどうか。それを考察するには、「道」の働きを国家にあてはめてみるといいでしょう。方法としては、国家を生命体になぞらえてみるのです。

生命体には、免疫機能というものがあって、常に生体を防衛しています。代表的な例は白血球の働きであり、細菌やウイルスなどの異物を取り込んで排除します。反射神経によって瞬間的に危険を回避するのも、生命体が持っている身を守る機能です。

生命体がこの防御機能を有するように、国家も“大きな命”として、一定の防衛機能を持つべきではないでしょうか。他国や他民族を侵略するための軍事力ではありません。あくまで、自国と自国民を守るための自衛力であることは言うまでもないことです。

理想としては将来、国家主権よりも地球主権のほうが大切になる日を迎えたいものです。地球主権によって国家同士の紛争が無くなり、世界が平和になれば本当に嬉しいことです。しかし、たとえその日が来たとしても、共同体を守るための防御機能は、人間に破壊と闘争の心がある以上、何らかの形で保持されるのが自然なあり方ではないかと思います。

誇りある歴史や伝統文化に、国家の豊かさがある

老子は本章で、道の働きを国に修めれば、その徳はすなわち豊かになると言いました。「豊か」というのは、物的繁栄ばかりでなく精神の豊かさでもあります。国家に関わる精神の豊かさは、誇りある歴史や伝統文化を外したら育ちません。やはり豊かさにおいても、素直な愛国心が大切であると思う所以です。

そして、己が所属する集団であるところの自国が、今よりもっと豊かな国になるよう、誰にも負けない努力を重ねていく存在が為政者です。議員や閣僚などの為政者が、本当に私心無く、国家の発展と国民の幸福を願っているかどうか。歴史を貫いて、今も問われている問題です。(続く)