No.64 松下翁、ウイスキーを10杯も飲まれた理由

部下が気になる。どうしてだろう、どう注意したらいいのか

大人の日常にとって、心身のコントロールくらい大切で、しかも大変なことはありません。心身の安定のためには、道の働きが重要です。これ(道の働き)を生かしつつ、心身を本来の状態に復帰させることが肝要となります。

方法として、まず挙げるべきは「素直な心になる」ことです。それは、赤子の心に復帰することに他なりません。綜観の師匠である松下幸之助翁こそ、高齢になっても素直さと赤子の心を失わないでいた代表的人物でした。

生前の松下翁をよく知る人の一人に、長年松下翁の秘書を務め、PHP総合研究所前社長であった江口克彦氏がいます。江口氏は現在参議院議員として、道州制などによる政治改革を提唱されています。江口氏の著書に『松下幸之助【随聞録】心はいつもここにある』があり、その中に次のようなエピソードが載っています。

松下翁はある夜、どうしても眠れなくなり、ウイスキーをビンのキャップで10杯も飲まれました。それで二日酔いになってしまったのですが、眠れないのは、経営における部下の考え方が気になってしまったからです。ある部下の考え方はいいが、別の部下の考え方は良くない。どうしてだろう、どう注意したらいいのかと。

そうこうするうちに「感謝報恩の念もうすれ、次第に興奮するわけや。それで十杯もウイスキーを飲んだんや」というわけです。(江口克彦著『松下幸之助【随聞録】心はいつもここにある』PHP文庫111ページ)。

83歳にして、愚直に自己反省し、生まれ変わろうとされていた

こういうとき、松下翁はいつも素直に反省されました。赤子の心に帰ろうとされたのです。

「それでいろいろ経営のことを考えて眠れんかったと。ぼくは六十年間みなさんのおかげで今日ある。ありがたいことや、結構なことやと知りながら、あの人のやり方は、と考える。ときにそのありがたいことや、結構なことやという感謝の念を忘れて不平不満を感じる。あ、もっともっと自分は感謝報恩の念に徹しないといかんと、そう思ったんや。

これからは不平不満が出てきたら感謝報恩に徹しよう、徹する努力をしようと。
その努力を始める今日が第一日目であると。これからはみなさんに会っても誰に会っても感謝報恩の念で頭をさげようと思う。もっと謙虚にもっと素直にならんといかんとこう思ってるんや。ぼくがそうでないときはみなさん、あきまへんと言って注意して下さい。」(江口克彦著『松下幸之助【随聞録】心はいつもここにある』PHP文庫112ページ)。

これは、松下翁83歳のときの言葉です。83歳にして、素直に自己反省し、生まれ変わろうとされていたのです。

熱が出たのは腹を立てたのが原因であると気付き、心持ちを変えたら熱が下がったというエピソードもあります(同116~117ページ)。今頃気付いても遅いとは思わないで、将来に生かせる得難い体験であると、心底喜ばれているのです。こういう柔軟な心のまま齢を重ねていくということも、達人らしい生き方の一つと言うべきでありましょう。(続く)