NO.73 理想の政治は、手出しをしないで放っておくところにある

雑音の多い煩雑化した世の中への文明批評

老子の理想とする政治は「無為」にあります。
余分なことは為さないというが無為です。
可能な限り手出しをしないで天下を治めるのが上策であり、無駄な施策が増えれば増えるほど、却って世の中は煩雑化し国民は貧しくなるものだと。

『老子』第五十七章は、内容において他章との重複が多いのですが、その分よく集約された一章となっています。無為の政治の必要性について、考察を深めてまいりましょう。

《老子・第五十七章》
「正道で国を治め、奇策で兵を用い、手出しをしないで天下を取る。
われは何で、それがいいと知ったのか。それは次のことによってである。

天下に規制が多くなると、民はいよいよ貧しくなる。
民に便利な機器が多くなると、国家は益々昏(くら)くなる。
人に技巧が多くなると、奇物が益々起こる。
法令が益々彰(あきら)かになると、盗賊が多く現れる。

故に(道家の)聖人は言う。
われ無為となれば、民は自ずと教化される。
われ静を好めば、民は自ずと正しくなる。
われ手出しをしなければ、民は自ずと富む。
われ無欲となれば、民は自ずと純朴になる。」

※原文のキーワード
正道…「正」、奇策…「奇」、手出しをしない…「無事」、われ…「吾」、
それがいい…「然」、次のことによって…「以此」、規制…「忌諱」、
いよいよ…「弥」、便利な機器…「利器」、益々…「滋」、技巧…「伎巧」、
多く現れる…「多有」、言う…「云」、われ…「我」、教化…「化」、純朴…「樸」

無為にして静か、そっとしておき無欲がいい

本章は難解な箇所が殆ど無く、意味が分かり易いので、まず全体を通解しておきましょう。

「政治は正道が一番だから、正直な方法で国を治めよう。戦争になったら、臨機応変な奇策で早く終わらせ、被害を少なくさせるのがいい。兎に角、無為の政治を為すべきで、あれこれ手出しをしないで天下を治めるのが理想だ。
私がどういう理由でそれを知ったかというと、次のことからである。

世の中に禁令や規制が多くなると、既得権益を持った一部の人だけが潤い、多くの国民はチャンスを失い、身動きが取れなくなって貧しくなる一方だ。

あれこれ便利な機械が多くなると、人々の生活が楽になるようでありながら、その便利な暮らしを政治が支えなくてはならなくなって、却って国家は混乱するものだ。

世の中の技術が進んでいくと、おかしな物が次々作られていく。人々はそれら珍品を手に入れたくて焦るようになり、枝葉末節に囚われて大切な本質から逸れてしまうことになるだろう。

法令がどんどん出されると、法律にさえ違反していなければ構わないという気持ちになり、人から物を奪い取って平気な盗人が、むしろ増えてしまうのだ。

そこで、道家の聖人は以下のように教えている。
為政者が無為を基本に政治を行えば、国民は自立心を起こして自然に育っていく。為政者がじたばた騒がないで静けさを好めば、国民は雑音に惑わされなくなって自然に正直になる。為政者が余分な手出しをしなければ、国民は自分から動くようになって自然に豊かになる。為政者が無欲な生き方を貫けば、国民はそれを見習って、自然のままの朴訥さを失わないでいられる。」(続く)