No.110 まず、大国からへりくだれ

◇求心力がなくなると無秩序状態になる◇

人は一人では生きられません。生活するには必ず仲間が必要です。
人が集まればイエ(家)やムラ(村)などの共同体となり、さらに大きくなればクニ(国)となります。

国家は悪であるという考え方があります。外に向かっては国家同士が相争い、内に対しては人民を苦しめて止まないのが国家権力であると。いっそのこと、国家を消滅させることが、平和と安心への道になるだろうという見解です。マルクス主義者や、無政府主義者が唱えた国家観がそうでした。

では、国家をなくせば平和の問題は解決するのかというと、なかなかそうはいきません。国家が消えたということは、権力の集中が無くなったということです。それによって抑圧から解放される人もいるでしょうが、一方で求心力が無くなって無秩序状態となり、却って人々の生活が不安定に陥ってしまうことになります。政治が機能しない内乱状態です。

また、力を持った隣国の侵略を受けることにもなります。何らかの力の空白が生ずれば、直ちに外から勢力が入ってきます。こちらが国家としての体(てい)を成していなければ、あっけなく他国に併呑(へいどん)されてしまうというのが国家間の力学なのです。

では、どうあったら世界は平和になるのか。その一つとして、まず大国からへりくだれという考え方が、『老子』第六十一章に示されています。

◇大国は下流に位置している◇

《老子・第六十一章》
「大国は(川ならば)下流で、天下の交わるところであり、天下の女性でもある。女性は、常に静かでいながら男性に勝つが、それは静で以て下位にいるからだ。

だから、(女性のように)大国が(静で)以て小国に下れば、則ち小国(の信頼)を得ることになる。小国が(静で)以て大国に下れば、則ち大国から(信頼を)受けられることになる。そうして、あるときは下ることで取り、またあるときは下ることで受けて貰えるのだ。

大国というものは、沢山の人民を養おうと欲しているに過ぎず、小国は(大国に)入り従うことで、人民の役に立とうと欲しているに過ぎない。(大国と小国の)両者は、各(おのおの)その欲するところを得るのだが、(まず)大国のほうから宜しくへりくだるのがいい。」

※原文のキーワード
女性…「牝(ひん)」、男性…「牡(ぼう)」、下位にいる…「為下」、
だから…「故」、得る…「取」、受けられる…「取」、そうして…「故」、
あるときは…「或」、受けて貰える…「取」、沢山の…「兼」、人民…「人」、
養う…「畜」、過ぎない…「不過」、入り従う…「入」、役に立つ…「事」、
大国から…「大者」、へりくだる…「下」
(続く)