No.113 大国は世界平和のカギを握っている

◇胃癌が恐くて、胃の切除を願い出た人◇

筆者が東洋医学の学生であったとき、教授から「胃癌が恐くて胃の切除を願い出た人がいた」という笑い話を聞きました。確かに胃を取ってしまえば、一生胃癌にはなりません。でも、消化機能が衰えて体が弱まりますし、食道や腸など他の臓器に負担が及びます。体全体からしたら、全く問題解決になっていないのです。

世界平和のために国家をなくそうという考え方は、それと似ています。
戦争は国家が起こすのだから、国家をなくせば戦争がなくなって平和になるという理屈なのですが、社会はそんなに簡単ではありません。

人間には「群れ気」がある以上、人が集まれば何らかの共同体(秩序)が必ず発生します。人は群をなして生きる生命体であり、集まりや秩序の大きな単位が国家なのです。

その秩序を倒すべきときもあります。政治が乱れて、旧体制を倒さなければ国民を救えないという転換期です。そういうときは、旧い秩序を崩壊させることになりますが、併せて新しい社会秩序の誕生を進めていかねばなりません。でないと、外国の侵略を受けることにもなって、歴史や文化が壊され、国民はもっと苦しむことになってしまいます。

◇大国はへりくだることによって高徳大国となる◇

国家が必要であり、これをなくすことが出来ないなら、一体どうすれば平和な世の中を建設出来るのか。老子は、その心得として「(まず)大国のほうから宜しくへりくだるのがいい」と教えました。

大国のほうからへりくだって、小国に対して丁寧に接する。それが大国の器量や度量だというのです。

大国のへりくだる姿勢を見て、それを卑屈であるとして、バカにするようなことはあり得ないでしょう。恭しい態度に深い威厳を感じ、小国はそういう大国に自ずと従いたくなるはずです。

今日であれば、まずアメリカや中国などからへりくだるというのが、平和への王道となります。大国は世界平和のカギを握っています。カギの使用によって、「高徳大国」の名誉を世界史に刻むことが出来るのです。

人もそうです。腕力のある者から弱い者にへりくだり、知恵のある者からそうでない者にへりくだり、金のある者から貧乏な者にへりくだれば社会は平和になるのです。

腕力や知力、金力で弱い者いじめをするのは、人として最大の恥です。
何らかの力を持つ者は、それを生かすことで持たない者を守る。そこに東洋人の誇りがあったのです。その美意識を、今一度復活させねばなりません。(続く)