No.119 敢えてしないで放っておく

◇何もしないことを積極的に為す◇

「無為を為す」。この言葉は『老子』の中に何度も出てきました。「無為」は「為さ無い」ということであり、文字の通り「何もしない」という意味です。その為さ無いことを「為す」のが「無為を為す」です。

意識して為すのだが、それは何もしないということであり、何もしないことを積極的に為していく。何だか回りくどい表現ですね。でも、単純に何もするなと言っているわけではありません。

「無為」は、取り方によっては、怠惰や怠け者の勧めのように思われてしまいます。無視して構わないとか、どんなときでも放って置けというふうに理解する人もいるでしょう。でも、そういうこととは違います。老子の真意はもっと深いところにあるのです。

◇やろうとすれば出来るけれども、決してしてはならない◇

この世には、やろうとすれば出来るけれども、決してしてはならないということがあります。核兵器の使用で、敵国どころか人類を滅亡させることさえ出来るけれども、何があっても使ってはならないとか、権限を用いて私利私欲を満たすことは可能だけれども、断固として公私混同はするべきでないなどと。この「出来るがしない」というのが、「為無為」の大事な解釈です。

それから「無為を為す」には、「敢えてしないで放っておく」という意味もあります。ちやほや世話を焼き過ぎると、甘えてばかりで子供が自立出来ないということがあります。あるいは、部下にあれこれ手を貸してばかりいると、なかなか仕事を覚えようとせず、人が育たなくなったりします。そういうときこそ、「無為を為す」という教えが、価値を発揮することになるのです。

◇小さな問題を大きくしてしまう愚◇

次に「事無きを事とする」。これは、常に大事を起こさないよう注意しなさい、または大事にしてしまわないよう心掛けなさいという教えです。何よりも無事が一番であると。

江戸時代初期の大学者であった山鹿素行の言葉に、「愚将は小敵を大にす」という名言があります。素行は朱子学(儒学)を超えて、やがて日本学を確立します。そして、吉田松陰らに大きな影響を与えました。

「愚将」は愚かなトップ、「小敵」は小さな問題という意味に置き換えられます。ダメなトップが立つと、そんなに難しくなかったはずの問題を、わざわざ大きくしてしまう。そういう戒めが「愚将は小敵を大にす」です。

信念が無いから意志が揺らぐ、部分に囚われるから焦ってばかり。当初は小さかった問題が、愚かなトップによって見る見る大きくなってしまうことがあります。総理大臣にそういう人が就いた場合、解決済みの問題まで蒸し返してしまって、国益を甚だしく損ねるという事態に至ります。(続く)