No.120 世界中で最も鋭敏な味覚を持っているのが日本人

◇無味なはずの水にも、甘味や旨さがある◇

続いて「無味を味わう(味無味)」について。そもそも味の無いものは味わえないではないかと文句を言われそうですが、決してそんなことはありません。無味なはずの水にも、甘味や旨さがあります。無味とも言えるものから微細な味を感じ取るということは、生命体が持っている当然の能力であり、生命維持の基本でもあるのです。

「味無味」は、食べ物が本来持っている自然の味を大切にし、人為による過度な味付けを避けよということです。薄味を尊び、素材自体が持っている旨さを生かす。それが日本料理の基本であり、調理の達人の心得でした。

食事の際、味覚の受容器官となるのが、舌(シタ)です(さらに詳しく言えば化学受容器の味蕾(みらい))。舌は、甘さ、酸っぱさ、辛さ、苦さ、辛さ、鹹さ(しおからさ)の五味を感覚します。さらに舌は、渋味(しぶみ)や旨味(うまみ)なども感じ取ります。

◇シタは水の溜まるところ、アヂは継続するものを開く◇

シタ(舌)を大和言葉で解析してみましょう。シは、潮(しほ)、雫(しずく)、滴る(したたる)、清水(しみず)、湿る(しめる)などのシで、水を意味します。タは、田、民(たみ)、平ら、高い、立つなどのタで、表面に溜(た)まる様子を示します。則ちシタとは、水の溜まるところを表した大和言葉なのです。

水は、料理に含まれている水分であると共に、唾液でもあります。五味が込められた料理を、噛みしめながら唾液で溶かしていって美味しく食す。それが味わいというものです。

そのアヂ(味)の音義ですが、アは口を大きく開けて発音する母音です。
開(あ)ける、明ける、新たなどと用いられ、開(ひら)く意味を持っています。ヂは濁点を取ればチで、千(ち)、血(ち)、千代(ちよ)、血筋(ちすぢ)、地(つち)、父(ちち)などの言葉から分かるように、継続、または継続するものを表しています。アヂは「継続するものを開いていく」という意味になるのです。

◇まず匂いを嗅ぎ、次に舌で確認せよ◇

継続するものの中で特に重要なのは、何と言っても命(いのち)です。命を維持するには、現在の自分にどんな食事が必要であり、また不要であるかを察知しなければなりません。

嗅覚も大事ですが、これに味覚が加わると、食べ物に対する判断能力は大変高まります。まず匂いを嗅ぎ、次に舌で確認する。そうすれば、食べていいかどうかくらい、いちいち賞味期限を見なくても自分で判定出来たのです。兎に角(とにかく)味覚によるアヂ、これなくして命を育み、また続けることは出来ないというわけです。

世界中で最も鋭敏な味覚を持っているのが日本人です。素材を生かし、そのままの味(薄味)を大切にしてきたことで、日本人の繊細な味覚が養われてきたのです。

日本の再生は、いろいろな方面から綜合的に起こすべきですが、忘れてならないのが日本食の復活でしょう。出来るだけ人工香料や人工調味料を使わない。刺激の強い物を常食としない。季節に合った旬(しゅん)の食材を大切にする、といったことがその心得になります。(続く)