No.126 既に限界に達した現代文明

◇成功しても幸せにはなれない◇

小さい内に処理すれば、何事も難しくない。これは前章で学んだ心得ですが、第六十四章にも同様の内容が出てきます。物事を進める上での注意事項が、さらに示されているのです。

例えば、焦らないで一歩一歩進めるべきことや、野心を抱いたり、固執したりしないこと。また、締め括りをしっかりやることや、知識に囚われないで自然の原理に則るべきことなどが、教えとして出てきます。

21世紀は東西文明の交代期と言われています。我々は、これまでの現代文明から、次の文明である共生文明に転換する、人類史の狭間に生きているのです。

膨張資本主義や欲望民主主義を基本原理とした現代文明は、既に限界に達しました。一直線に経済成長することが善であり、その成長は決して止めてはならないという考え方自体が行き詰まったのです。

利益至上主義の中で人々は激しい競争と戦いにさらされ、成果を上げて勝者になったものの心身はボロボロ。敗者は敗者で経済格差に苦しみ、落ちぶれた現実を呪うばかり。結局、落ちぶれたら当然のこと、成功しても幸福にはなれないという追い詰められた状況に、世の中全体が陥ってしまったのです。

そうして、正義の精神や慈悲の心が消え、政治は腐敗し、人心は堕落する一方。
社会は自分のことしか考えない人々で溢れ、子供たちにとって尊敬出来る人は、テレビに出ている有名人と、金儲けが巧みな人のみというのが実態です。

その一方で、信じられるものを探し、精神の拠り所を取り戻そうとする人も現れています。宇宙と人間の関係や、国家の役割と国民の使命などを探求する人々が、着実に増えているのです。価値観そのものを切り替えるべき時代に到った今、『老子』に学ぶ意味が高まっていることを痛感しております。

◇聖人は、為すことが無く、故に敗れることが無い◇

《老子・第六十四章》
「安定しているものは保持し易く、未だ兆(きざ)していないうちは対処し易い。脆(もろ)いものは解け易く、微小なるものは散らし易い。物事は顕在化しないうちに処理し、乱れないうちに治めよ。

一抱えの大木は、毛先(ほどの芽)から生ず。
九層もの高台は、一盛りずつの土の積み重ねから起工する。
千里の行程は、足下(の一歩)から始まる。

作為でやろうとする者は敗れ、固執する者は失う。
こういうことから(道家の)聖人は、為すことが無く、故に敗れることが無い。
執着しないから、故に失うことも無い。

人民が仕事に従うとき、いつも殆ど完成するというところで失敗している。
仕上げを慎重にすることが始めのようであれば、則ち失敗する事は無い。

こういうことから聖人は欲望を持たないことを欲し、得難い財宝を貴ばない。
(知識に過ぎない学問は)学ばないということを学び、民衆の行き過ぎたところを(本来の姿に)復帰させる。そうして万物の自然(な在り方)を助けて、敢えて(無理な事は)為さない。」

※原文のキーワード
安定しているもの…「安」、保持し易い…「易持」、未だ兆していない…「未兆」、対処し易い…「易謀」、脆いもの…「脆」、解け易い…「易・さんずい+半」、微小なるもの…「微」、散らし易い…「易散」、物事…「之」、顕在化しないうち…「未有」、乱れないうち…「未乱」、一抱えの大木…「合抱(ごうほう)之木」、毛先…「毫末」、九層の高台…「九層之台」、一盛ずつの土の積み重ね…「累土(るいど)」、起工…「起」、千里の行程…「千里之行」、作為でやろうとする者…「為者」、固執する者…「執者」、こういうことから…「是以」、為すことが無い…「無為」、敗れることが無い…「無敗」、執着しない…「無執」、失うことも無い…「無失」、人民…「民」、仕事…「事」、従う…「従」、いつも…「常」、殆ど完成するというところで…「於幾成」、失敗…「敗」、仕上げ…「終」、慎重…「慎」、ようであれば…「如」、失敗する事は無い…「無敗事」、欲望を持たないことを欲す…「欲不欲」、得難い財宝…「難得之貨」、貴ばない…「不貴」、学ばないということを学ぶ…「学不学」、民衆…「衆人」、行き過ぎたところ…「所過」、復帰…「復」、そうして…「以」、助ける…「輔」、敢えて為さない…「不敢為」 (続く)