No.140 先人の念子が乗り移ると、普通では成し得ない創造力が発揮される

◇人にはそれぞれ、その人の天性と使命がある◇

吉田松陰先生は、全身で考え抜いた意見のみを信じました。頭の中を巡らせただけの意見が、如何(いか)にあてにならないかを知り抜いていたのです。激動期の困難にぶつかったときは、身体全体で練り上げた「止むに止まれぬ思い」、則ち胆識レベルから出て来る意見でないと全然役に立ちません。

人にはそれぞれ、その人の天性と使命があります。天性に基づく使命、これを天命と言います。天命に裏打ちされた意見であってこそ、相手の胸を打ち、困難を打開していく元となります。松陰先生にとって教育とは、一人ひとりが秘めている天命を引き出すことに他なりませんでした。

筆者は、主に経営者・経営幹部を対象にした「合宿天命講座」(一泊二日)と、志士政治家の育成を目的とした「政治家天命講座」(1期1年)を長年続けています。どちらも、受講者の天命発見と、その開発に基本を置いています。各人の天命と日本の役割、そして人類の発展を結ぶところに講座の意味があるのです。これらを主宰するに至ったのは、吉田松陰先生や松下幸之助塾長の念子を頂いたからでした。

◇念子無くして、達人無し◇

何かの偉大な活動を起こし、創造的な仕事を果たした人。あるいは伝統的な技術や大切な仕事を受け継いだ人などを観ると、必ずその分野の先人・先達の念子を受け入れております。このことに例外は無いと言えます。

自分が深く感じた人物から、念子をしっかりと取り込んでいく。それによって、相手が自分の中に再現される。そうして、先人の念子が乗り移った状態が起こり、普通では成し得ない創造力が発揮されるのです。要はそれが、本連載で述べてきた達人の姿でした。

師の念子(志)を受け継いだ弟子から志士政治家としての達人が登場し、創業者の念子(理念)を継承した社長から経営の達人が現れます。歴史的芸術家の念子(美的感性)を吸収した者の中から、天才的な画家や書家、ピアニストや作曲家などが生まれます。文豪の念子(社会観や人間観)を取り入れて、素晴らしい著作に向かう小説家や詩人も同様です。「念子無くして達人無し」というわけです。(続く)