No.7 愛がなければ勇気は起きない

◇道家の聖人として生きるための、大切な三つの心得◇

では、表面的な生き方に陥らず、単なる世間知らずや、器の小さい人間にならないためには、一体どうしたらいいのでしょうか。老子は「私には三宝があり、しっかり持ってこれらを守っている」と言いました。「三宝」とは、道家の聖人として生きるための、大切な三つの心得のことです。

それらは「一に慈愛、二に倹約、三に自分から天下の先(さき)に立たないということ」です。「慈愛があるから勇気が湧く。倹約しているから広く施すことが出来る。自分から天下の先に立たないから、才器の長と成るのだ」と老子は言いました。

「慈愛があるから勇気が湧く」というのは、考えさせられる言葉です。普通、勇気が湧くのは、正義感が旺盛で、胆力が働くときだと思われています。ところが老子は、慈悲や愛情こそ、勇気の元であると教えたのです。

考えてみれば確かにその通りで、例えば悪政や不正の下で困っている人を放っておけないという慈愛が、義侠心となり、勇気をわき立たせる根元になります。愛がなければ勇気は起きないというわけです。

二つ目が「倹約」です。倹約・節約していれば生活がスリムになり、その分、身動きが軽くなります。そうすれば「広く施すことが出来る」ようになると。世のため人のために、お金を思い切って使えるのも、普段の節約がカギになるのです。

◇“先頭病”に罹った人の症状◇

三つ目は「天下の先に立たない」という心得です。爪先立ち、無理に背伸びするようではいけないと戒めました。

自分に負荷を掛けたり、目標を高いところに設定したりするのは、成長する上でとても大切なことです。しかし、格好良くやろうとし、世間の目を気にし過ぎますと、おかしなことになっていきます。

そして、神経質なくらい数字に囚われたり、いつも失敗を恐れたりするようになります。そうなれば、ミスがあっても間違いを認めようとせず、滅多に謝りません。詫びたとしても、「でも責任は自分には無い」と主張する有様。

そういう風ですから、回りからの忠告に対する聞く耳は持ちようがありませんし、「文句を言ってきたら、いくらでも反論するぞ」という態度によって、何も言わせない雰囲気をつくっています。他人を押しのけ、早く成功したいと欲する、いわゆる“先頭病”に罹った人たちの症状と言えるでしょう。

◇「才器の長」◇

いくら先頭に立つことが大事だといっても、これでは誰も付いてきません。
そういう先頭の立ち方では、結局単なる孤高で終わってしまいます。老子は、その辺を考慮して「天下の先に立たない」ようにと教えたのです。

では、後ろに立ったまま終わるのかというと、決してそうではありません。
同志や同輩、さらに後輩や弟子たちを応援し、面倒を見て育てていくのが、「天下の先に立たない」人の生き方です。

そういう人は、皆に慕われ、いい仲間に恵まれていきます。気が付いたら、多くの同志の中心に位置していることにもなります。

仲間たちは、それぞれ才器、則ち自分の特性や得意分野を持っています。
才器は、生かしてくれる人(聖人)に出会うことで伸びていきます。
道家の聖人は、「自分から天下の先に立たないから、才器の長と成る」のです。
(続く)