No.50 物事の原点に帰る、基本に返る

◇高いものを抑え、低いものは上げる◇

弓矢というものは、弓の弾性によって矢を飛ばします。その反発力を高めるためには、弓の反り具合と、弦の張り方が重要になります。

弦を張る前の弓は逆に反っていて、中央よりも両端のほうが前に出ています。これを横にすると中央が高くなります。弦を張るときは、この中央部を下に抑え、低くなっている両端を引き上げるようにして作業します。

弓と弦の関係でいえば、長くて余りあるほうの弓は縮め、短いほうの弦は引っ張って伸ばすことになります。

これらは天の道、即ち「天地自然の原理」の例え話です。天地自然には、高いものを抑え、低いものを上げ、長いものを縮め、短いものを伸ばす働きがあるということを教えようとしたのです。

◇陰陽循環の原理◇

その天地自然の重要な原理に「陰陽循環」があります。「陰極まれば陽に転じ、陽極まれば陰に転ずる」という陰陽の循環によって、昼夜の交代や四季の巡り、文明の盛衰が起こります。

真昼を過ぎれば夕方から夜に向かい、深夜はまた明け方となって日が昇ります。最も日の長い夏至を越え、真夏を過ぎれば秋となり、最も日の短い冬至を越して厳冬が過ぎれば春を迎えることになります。文明も最盛期を過ぎれば衰退して崩壊に到り、準備期を経て次の文明がまた勃興してまいります。

こうして、高くなれば抑えられ、低くなれば引き上げら、長いものは縮められ、短いものは伸ばされることで循環します。それによって全体のバランスが取れ、調和が維持されていくのが天の道であり、老子はそれを弓に例えたというわけです。

◇復帰蘇生の原理◇

また、天の道には、しなやかに反発する弓のような「復帰の原理」もあります。安定を失って混乱しても、元に戻る力が働くことで復興するのです。その回復作用が復帰の原理であり、蘇生の原理と言い換えてもいいでしょう。

この原理を生かすには、内発の力を待たねばなりません。無理な手は加えず、中から再生の働きが起こるまで辛抱強く待つのが心得となります。

勿論、応急手当が必要なときに放っておけというのではありません。タイミングに合った適切な処置というものも大切です。しかし、基本は「自然な再生を促す」ところにあり、人為によって蘇生力が削がれるようでは困ります。

その元に戻る蘇生力は、一体何処から来るのでしょうか。再生や復帰のための、その根源力の発動です。それには、物事の原点に帰ることや基本に返ることが何よりも肝腎となります。

人生の苦難を越えるときは、何のため・誰のために生きるのかという人生の原点に返り、仕事でスランプに陥ったときは、仕事の基本動作というものに返れば打開の道が見えてきます。新しい社会秩序を誕生させようというときならば、伝統精神の見直しや基底文化の復活を図ることによって、国家の蘇生力が醸成されてまいります。(続く)