No.54 身内ですら分かってくれない孤独感を、歯を食いしばって耐え抜く  

◇欧米の覇道政治から、東洋の王道政治へ◇

続いて老子は述べます。「弱が強に勝ち、柔が強に勝つ(という原理)は、天下で知らない者はない。だが能く行う者もない」と。水の譬えのように柔弱が剛強に勝つということは、原理として知らない者はいないのに、これを生かせる人はなかなか見当たらないと言うのです。

特に、指導者と呼ばれる者の中に「弱は強に勝ち、柔が強に勝つ」という原理を理解する者が少なく、さらに用いる者となると希有な存在となります。弱者は強者に負けるに決まっているし、柔軟は剛強に勝てないのが当然と考え、力のみを信じ、力で相手を圧倒しようとしてしまうのです。

平和というものは、大国が小国を侵すことなく礼節を以て接し、小国は大国に対して敬意を表し、その国徳に浴していく。そうなれば、難なくもたらされるはずのものです。老子は、「まず大国からへりくだれ」と諭しました。

武力や財力による覇道外交ではなく、21世紀の今こそ、アジアの国々は王者の徳力による王道外交を天下に示さねばなりません。欧米の覇道政治から、東洋の王道政治への転換です。そうでなければ、人類に明日はないというところまで来ているのです。

◇勝海舟も高杉晋作も、世間の不理解に大変苦労した◇

国の恥辱や不幸など、人の嫌がることをも受け入れてしまうのが、水の如き真の君主や王者だと述べました。「国の恥辱を受ける者を社稷(しゃしょく)の主といい、国の不幸を受ける者を天下の王と為す」のが、道家が求める君主像であり、理想とする東洋的人物像です。

恥を忍んで苦渋の選択をした忍従外交に対して、世論は怒り狂う。浴びせ掛けられる罵詈雑言をじっと堪(こら)えつつ、身内ですらなかなか分かってくれない孤独感を、歯を食いしばって耐え抜く。それが指導者の生き様です。

命懸けの苦労を経て江戸城無血開城を為し遂げた勝海舟に対して、幕臣たちは「大逆臣」、「腰抜け」、「意気地なし」、「徳川を売る犬」などと悪口(あっこう)を投げ掛けました。

単純な攘夷が無謀であることに気付いた高杉晋作は、まず長州を“開国”させて下関で貿易をしようとしますが、仲間たちから日本を汚す開国主義者と罵(ののし)られ、刺客に狙われることになりました。志士たちも、世間の不理解に大変苦労したのです。(続く)