No.62 一見さんお断りの意味

◇花街で威張り散らすという不粋◇

京都には「一見さんお断り」という商い上の習慣があって、今でも花街の敷居は高いと言われています。信用出来る人の紹介を基本とし、価値を分かってくれる客を相手に、しっかりしたサービスを提供するのがその目的です。いきなりやって来る「一見さん」を避けることで、店が客を選び、信用を元に長い付き合いをしていこうというわけです。

千二百数十年の歴史を持つ京都という町は、「時の権力者」による侵入を何度も受けました。源平の争乱期、応仁の乱と戦国乱世の頃、幕末維新の動乱期などが、覇者たちが上洛した時期でした(いずれもNHK大河ドラマの代表的時代背景)。

権力者たちは基本的に成り上がり者であり、多くが一時(いっとき)の覇権で終わります。ブームのように栄えては一気に萎(しぼ)んでいくという、栄枯盛衰の儚(はかな)さを京都人は沢山見てきました。一時の権力者たちも、一種の「一見さん」だったのです。

その歴史的体験を経て、商いに於いても、長い目でものを考え、深く人を観るという習慣が、遺伝子のように受け継がれてきたようです。だから、成功者が成り上がった地位と掴んだ金にものを言わせて、花街などで威張り散らすという不粋(ぶすい)な振る舞いをすれば、京都人の不評を大いに買うことになります。

◇テレビに出ている有名人ほど中身が無い!?◇

花街の人たちは、客をよく観ています。どういう人間が、これから成長する人なのか、あるいは間もなく消え去る人なのかと。

京都ではないですが、伊東温泉(静岡県)でコンパニオンの派遣業を長いこと営んだ経験を持ち、バーを経営しているママさんから、「テレビに出ている有名人ほど(一般的に)中身が無い」と聞いたことがあります。

映像の世界は、つくられた世界です。そこに登場する有名人も、視聴者から求められる自分を演じているのでしょう。いつも演技ばかりしていれば疲れます。地方でお酒を飲むときくらい、羽目を外して素の自分を出したくなるのは当然です。

でも、その品の無い様子を見てしまえば、有名人であろうが、そうでなかろうが「男はみんな一緒だ」ということになってしまいます。飲めば誰でもだらしなくなるものだが、有名人ほどその落差にびっくりさせられるというわけでしょう。

◇「あなたは50歳を超えると偉くなる」◇

そういえば、筆者が二十代の終わり頃、かつて花街で働いていたという高齢の女性から、「あなたは50歳を超えると偉くなるわね」と言われたことがありました。そのときは「一人前になるまで、まだ20年以上もかかるのか」と思って少々がっかりしました。

今年(平成27年)、私は58歳になります。これまでの人生を振り返ってみると、学問(綜學)の基礎確立に地道に励むばかりで、立身出世には殆ど無縁に生きてきました。近年、弟子たちが成長してくれたお陰で、少しは世に知られてきたものの、地道であることは相変わらずです。

そのお婆さんは、多くの人物の浮き沈みを観察してきたのでしょう。私の不器用一心な性格を観て、この人は成長に時間が掛かる晩成型だということを、即座に見抜いてくれたのです。(続く)