No.80 ちょっとした楽しい出来事に感動し、よく笑い、喜び合う

◇小国寡民~争えば損になる環境◇

生まれ育った土地に嫌悪感を持ち、つい余所(よそ)に目が向く。自国を卑下し、いつも他国に憧れる。そうした自己否定的な感情は、誰にでも起こり得ることだと述べました。

生い立ちの中で、辛く悔しく悲しい体験をすれば、故郷が嫌いになるのは当然です。二度と生地には帰りたくないという人もいるはずです。その嫌な経験の中に、何かに敗れたり、虐められたり、馬鹿にされたりということがありますが、そういう摩擦の少ない環境が小国寡民であると言えます。

老子が理想とする小さなムラやクニにも、気勢を上げる祭りのような競い合いはあります。でも、醜い争い合いはありません。日常的に助け合い、協力し合って生きており、そこには争えば損になる状態が形成されています。相手を潰す必要がなく、互恵と和合によって幸福を創造していくのが小国寡民の目指すところなのです。

小さな環境ですから、地位といっても人が羨むほど高いものではありません。まとめ役となる頭(かしら)や長(をさ)はいても、親切な親方のような存在です。

その立場は、皆が血眼(ちまなこ)になって奪い合うほどのものではないから、人々を苦しめる覇者、残忍な梟雄(きょうゆう)、悪賢い奸雄(かんゆう)が出難いのです。大きな紛争を収める覇王などは、出現の仕様がありません。

◇良いことは称え合い、辛いことは慰め合う共感力◇

そして、自然の食べ物を美味しいとし、質素な服を美しいとし、粗末な住居に安んじ、素朴な習俗を楽しんでいるのですから、貧富の差も大きく開いていません。

地位とお金、これらが嫉妬の元であり、闘争の原因となるものです。それらが少ないのであれば、人々は随分安らいで暮らせます。

そこには、心が荒むことのない落ち着いた静けさがあります。気分が安定していれば、季節の変化を敏感に感じ取り、天地自然の恵みを心から味わい、ちょっとした楽しい出来事に感動し、よく笑い、喜び合うことが出来ます。

また、良いことは称え合い、辛いことは慰め合う共感力が発達しています。小国寡民による、互いに声を掛け合う親しさや思い遣りのある温かさが、素直な愛郷心を育て、そこに住む人々の幸福の基盤を創っているのです。(続く)