No.89 一方で軍備を増強しながら、もう一方で戦争を避けたいと欲する

◇戦争が利益を生まなくなってきた◇

21世紀は東西文明の交代期であり、人類は世界史激変期に突入している。これまでは「西の文明」が世界をリードしたが、欧米とは異質の勢力である、中国とロシアとイスラム過激派の三者が台頭してきた。これから先、日本は世界的な動揺に備えなければならない、というところまで述べました。

軍備が一層増強され、軍事技術が益々進歩している現実を見れば、世界は陣取り合戦を加熱させていることが分かります。一体どこまで人殺しの用意を進めるつもりなのかと呆れます。

しかし、その一方で、戦争が互いに損となる状況も生まれてきています。かつては、勝者の得になるから戦争が起こされました。領土を広げ、資源を収奪し、そこを市場とすれば国力が高まったのです。

ところが、今や一国の経済が他国の景気を左右し、どの国が滅びても、世界経済全体が行き詰まってしまう時代に入っています。直接兵器を売って儲けている軍事産業などを別にすれば、世界経済の互恵的依存化によって、戦争が利益を生み難くなってきているのです。

もしもアメリカと中国が戦うようなことがあれば、経済的混乱がドミノ倒しのように世界に波及し、各国の窮乏した国民は暴動を起こし、多くの政権が崩壊へと向かいかねません。仕掛けた側も仕掛けられた側も、また直接紛争に無関係な国々にとっても得にならず、人類全体が多大な損失を被ることになるのです。

◇西南戦争以来140年近く内乱無し、戦後70年対外戦争無し◇

昔は、国内でも戦争が起きていました。戦国時代は、下克上でのし上がった戦国大名が覇を競い合う乱世でした。関ヶ原の合戦や大阪の陣を経て、徳川政権が確立されると長い平和が続きました(一揆の島原の乱や、未遂に終わった由井正雪の乱を除く)。

その後、幕末維新期には戊辰戦争が、明治になってからは西南戦争(明治10年、1877)が勃発しますが、これを最後に大きな紛争は起きていません(テロであった五・一五事件や二・二六事件を除く)。西南戦争を最後とすれば、我が国は140年近く内乱から遠ざかっています。

対外戦争においても、大東亜戦争終戦後70年間戦争を起こしていません(平成27年)。多くの若者が倒れ逝き、国富に多大な損害を与える戦争が、あまりにも無念で愚かな行為であるということが、国民の間で常識になっているものと思われます。

少し前までは国家の“第一の仕事”が戦争でしたが、現在では戦争を本気で望む国は少なくなってきています。その理由に、経済が密接な関係になってきたことが挙げられます。

外交では未だに武力が有効であるものの、経済の成立には、平和による共存が必須の要件になったのです。一方で軍備を増強しながら、もう一方で戦争を避けたいと欲する。この二つの異なる考え方が交錯しているのが、現在の世界心理ではないでしょうか。(続く)