その12 初めから諦めていたら、出来る事も出来ないで終わってしまう!

沖ヨガ修道場の導師は、インドで修行し、日本ヨガ界の草分け的存在となった沖正弘先生です。沖先生の指導は大変厳しいことで知られ、しばしば普通では出来るわけがないことを弟子に命令しました。

私は鍼灸の資格を持っていたので、病気治療を目的に入所してきた受講生を相手に鍼治療を担当しておりました。ある日、30人ほどの受講生に一通り鍼を打ち終えたところで、沖先生のいる導師室から指示が降りてきました。

その指示は「今から質疑応答会を行うので、5分後に全員を広間に並ばせよ」というものです。30人の患者から鍼を抜くのだって5分間では無理です。治療目的ではない受講生は、別の部屋で研修を受けています。また、研修生や奉仕生と呼ばれる道場のスタッフも沢山いて、調理室その他で任務に就いています。

それら全員に伝令し、広間に集めて整列させ、沖先生に人員報告が出来るよう把握するとなると、大変手間の掛かる仕事になります。よく慣れていても、1時間は必要な作業となるはずです。

すぐに広間に集合出来ない状況を説明し、「5分後は無理です。治療も研修も途中だから、少なくとも1時間後にして下さい」と言いたいところですが、そうはいきません。「これが火事だったら、おまえは1時間待てるのか」などと問い詰められ、沖先生から猛烈な叱声を浴びることになります。普通の組織であれば、出来ないことは出来ないと言えば考慮してくれるのでしょうが、それでは全然鍛錬にならないというのが沖先生の考え方だったのです。

そのとき私は、21歳という最年少(スタッフ中)ながら研修生当番を仰せつかっていました。研修生当番というのは、研修全般の取りまとめ役です。「5分後」という指示が私に下されたのは、研修生当番だったからです。

さあ、とにかく指示に対応するしかありません。治療を補助してくれていたスタッフと一緒に30人の鍼を抜き、人を遣って沖先生の指示を別室の研修生らに伝え、事務室に人員をチェックさせました。

そうして、そのとき道場にいた約60人を広間に集めて正座させ、マントラを唱えながら沖先生の入場を待つというところまで漕ぎ着けました。そのとき、時間は10分近く経っていました。5分では流石(さすが)に難しかったですが、数分の超過で済んだのです。

我々の能力は本来無限です。限界を作っているのは己自身です。5分でやろうと決意すれば数分の遅れで済むが、最初から1時間掛かると見積もれば、それが1時間半とも2時間ともなり、大幅に超過してしまうものだと気付かされた経験でした。

考えてみれば、私一人の成長のために約60人の予定が変更されたのですから、本当に貴重な、そして最高の鍛錬の機会を頂いた“特別研修”でした。

このときから、新たな信念を持つようになりました。時間が無いから何も出来ない、などという固定観念で可能性を狭めてはならない。自ら限界を作って、能力を固定化してしまうようではいけない。初めから諦めていたら、出来る事も出来ないで終わってしまう。本氣になろう!必死になろう! そうすれば大抵のことは成し遂げられる! この、殻を破って自分の可能性を広げるということも綜學の精神なのです。(続く)