その15 鶴の一声で、松下政経塾合格者第1号に!

沖ヨガ修道場で住み込み修業をしている間に、国学・大和言葉の先輩から手紙を頂きました。「今度、松下電器(現パナソニック)の創業者である松下幸之助氏が松下政経塾という私塾を創り、そこで政治家をはじめとする指導者育成をやるそうだ。君も受験してみたらどうか」という文面でした。

私自身、上京中に文明論や日本学を学んだことで、「政治家の道もあるな」という意志を持っていました。しかし、他の青年たちと違って、政治経済に関する一般常識的な勉強を全然しておりません。特にヨガ修道場では、テレビは見ない、新聞は読まないという生活をしていましたから、世の中の動きに全く疎くなっていました。鍼(はり)を打つときのツボの名前なら誰よりも知っていますが、現内閣の閣僚の名前なんて全然知らないという有り様だったのです。

自分には向かない塾だろうと思いながらも、とにかく資料を取り寄せてみました。そうしたら「入塾のしおり」というパンフレットの「塾長のことば」に驚きました。その一部をご紹介します。

「世界の歴史を通観すると、繁栄の中心は時代と共に移り変わっている。古代、エジプト等中東の地において文明の発祥を見、ついで繁栄はギリシア・ローマを経て欧州全域に広まり、さらに近代にいたってアメリカへと移った。そのアメリカが停滞の様相を示しつつある今日、世界の繁栄は二十一世紀には日本をはじめとするアジアにめぐってくると思われる。したがって、日本はいまから国の各面にわたって、きたるべき繁栄の受け皿づくりに取り組まねばならない・・・」

私は、この松下塾長の文明論にピンと来るものを感じました。高校二年生のときに受けた「21世紀の危機を救うのは東洋文明である」というインスピレーションや、「東西文明は800年周期で交代し、21世紀は世界史激変の転換期になる」と予測している文明法則史学と相通ずる内容だったからです。

ここまで壮大な世界観で指導者を育成するというのなら、この自分も学んでみたい。そう考えて受験することにしました。

「入塾のしおり」と募集要項を求めたのは約1万人。その中から904人が応募し、3次の試験を経て23名が第1期生となりました。

1次試験の論文審査では、国学や東洋医学、ヨガで学んだ綜合性の大切さを基に、「日本的思惟・全体観喪失の危機」の題名で持論を提出しました。日本人は、常に全体を捉え、調和を大切にしてきた。ところが近代以来、部分観が蔓延して全体観が喪失している。そこに日本の危機の本質があるという趣旨で書いたのです(約4千字)。

この論文が早い段階で松下幸之助塾長に伝わったらしく、「アホでもかまへんから採っておくように」という鶴の一声のもとに、私は合格者第1号となったようです。1期生の内定後、記者会見が行われ「これはと思う青年はいましたか?」と問われたところ、「ひとり、おもろい男がいる。東洋医学を勉強したい言うて、大学へは行かんと鍼(はり)の学校へ行ったちゅう奴や。これはなかなか楽しみや」と第一に私のことを挙げてくれました。私に対して、既成の価値に囚われることなく、何か新しいことを起こすかも知れないという可能性を見出してくれたものと思います。

松下政経塾合格後、ヨガの沖正弘先生のところへご報告に行きました。喜んで下さると共に「松下政経塾には頭脳優秀な青年が集まっている。おまえは頭で張り合ってはいかん。今のうちに、人々を治す力や救う力を養っておけ」と注意してくれました。

こうして20歳を超えた頃には、既に綜學の芽が出ていました。綜學の祖型は、若い内に出来つつあったのです。(続く)