その19 そもそも何がしたかったのか、それは何のためだったのか

では、自分にとっての原点を考えてみて下さい。まず、今取り組んでいることや、今やっている仕事の原点を見付けてみましょう。その際、「そもそも」に続く言葉を書き出してみると、スムースに浮かんでくるはずです。

例えば、今医学の勉強をしているなら、そもそも何がきっかけで医道を選んだかを振り返ってみるのです。家族や身近な人に病で苦しむ人がいたことが原点であるとか、子供の頃に出会った医者を尊敬したことが原点になっているといったことが、きっと見えてくると思うのです。

あるいは、今政治家としてがんばっている人なら、故郷の衰退を放っておけなかったことや、困っている人を助けたかったこと、祖国の混迷を何とか救いたいと思ったことなどが、そもそもの原点として思い起こされるにちがいありません。

この「原点は何か」という問いに対して、すんなり答えられる人がいる一方で、いくら考えても頭に浮かばない人がいます。でも心配要りません。すんなり答えられたからといって、もうその人の原点は大丈夫かというと必ずしもそうではありません。原点は何層かあるのが普通ですから、表層だけ分かったからといって直ちに安心するわけにはいかないのです。むしろ、最初に悩むくらいのほうが、やがて納得のいく原点に行き当たるものです。

原点の掘り下げの方法は後で解説するとして、全然原点が浮かんでこない人のために「原点発見のヒント」を数点述べておきます。

第一は「内なる声」に聞いてみるということです。答は案外自分が知っているものです。外にばかり気を取られていないで、もっと自分の内なる声に耳を傾けてみましょう。そもそも自分は何がしたかったのか、それは何のためだったのかと。

第二は「運命の肯定」です。人には、それぞれ運命(宿命的な運命)というものがあります。どんな時代の、どこの国に生まれたのか。故郷はどこか。先祖は何をしており、親の仕事は何か。商売をしていたのか、それともサラリーマンか。兄弟はいるのか、いるなら何番目に誕生したか。自分の個性や特性は何か。持って生まれた性格はどんなか。勉強やスポーツは何が好きか。背は高いか低いか。などといった、決まっている事柄が運命です。

それらを考えると、あらかじめ定まっている事の多いことに気付かされます。松下幸之助は、運命の8割から9割は既に決まっており、自分で変えられるのは残りの1割から2割だと言われました。

運命の8割から9割は既に決まっていると聞くと、人生は諦めるしかないといった心境になりそうですが、決してそうではありません。大切なことは、それらを肯定出来るか、それともいつまでも否定したままでいるかにあります。肯定出来るなら、それらが生かされ、残りの1割から2割に秘められている可能性も発揮されることになるはずです。

運命の中には、見たくない事や捨て去ってしまいたい事もあるでしょうが、全て否定している間は、なかなか先が見えてきません。変えられるはずの1割から2割の部分も生かされ難いでしょう。しかし、従来否定していた運命が肯定出来るようになると、そこから大事な原点が確立する可能性が大いに出てくるというわけです。

第三は「危機感を持つ」ということです。危機感は問題意識のことで、危機や問題を感じたところに原点が潜んでいることがよくあります。なお、危機を感じるにはセンサーである「根」を張っていなければならず、それはその人の大局(根の広がり)につながるのですが、それについては後で述べます。ここでは、危機感が働けば、それによって「種」が宿されるということを知っておいて下さい。(続く)