その36 大切なのは居室の広さではなく精神の広さ

◆吉田松陰による大局観察の教育

吉田松陰は初めて訪れた場所で、まず高いところに登って全体を見渡し、それから町を歩くようにしたそうです。

また、歴史の講義をする際、しばしば地図を開いたそうです。それは物事を全体から眺め、大局に立って情勢判断する能力を身に付けさせるためです。

高所に立つのも、地図を見せるのも、大局から細部へと思考を進めるために必要なことでした。

世の中には、豊富な知識を持ちながら、それが上手くつながっていなくてバラバラであったり、自分ならどうするかという置き換えが不十分なため、せっかくの知識が知恵になっていなかったりする人が随分います。そうならないよう、松陰は大局観察の教育を塾生に施したのです。

松陰は、常に世界の中の日本を意識し、世界情勢から日本の進路を考えていました。『講孟剳記』に「余、一間(ひとま)の室に幽閉し、日夜五大州を併呑(へいどん)せんことを謀る」と記されています。

この文を書いた頃、松陰は実家の杉家の一室に謹慎していました。この身は僅か三畳一間に籠もっているが、精神は広大な世界に及んでいる。人は、そんな私を笑うだろうが、大切なのは居室の広さではなく精神の広さではないかと説いて大局観を示しました。

そういう師から、世界をよく掴んだ上で攘夷開国を突き進む、高杉晋作や伊藤博文のような弟子たちが育ったのも当然のことでしょう。(続く)