その50 大和言葉とコトダマ(言霊)

◇1300年以上前と現代が連続していることの奇蹟と感動!◇

「知の文明法則史学」に続き、「情の大和言葉」について述べてまいります。日本人は、新しいものを進んで取り入れる積極進取の国民性を持っていると同時に、古い物を大切に伝えていく保守の精神も有しています。神話(古事記など)と、そこに登場する神々への信仰と、言語(大和言葉)と、国民(縄文以来のチスヂ)が一致する日本国には、タテイトの連続性があるのです。

言語における連続性では、漢字が入ってくる前から存在している「大和言葉」が、そのカギとなっています。大和言葉は原日本語と言っていい古さを持ちながら、漢字の訓読みに当たるものとして、現在も話されている日常の言葉となっています。

「早(はや)行きて何時(いつ)しか君を相見むと 念(おも)ひし情(こころ)今ぞ和(な)ぎぬる」
(訳)さあ早く行かなけりゃ。あとどれくらいしたら会えるかな、と思う切ない気持ちが、こうして君に会えたことで今ちょっと和(なご)んできました。

これは『万葉集』巻十一(まきのじゅういち)に収められている和歌で、作者は不詳です。和歌は、基本的に大和言葉で詠むのがルールです。「早(はや)」、「行(ゆ)く」、「何時(いつ)しか」など、どれも現代の我々が普通に使っている大和言葉ばかりです。たとえ全然訳さないとしても、大体の意味を分かって頂けると思うのですが如何でしょうか。

万葉集は、西暦7世紀後半から8世紀後半にかけて編纂されています。概ね1300年ほど前です。それほど昔の言葉と、現代の我々の言葉に断絶が無いのですから驚きです。これは、世界的に見て奇跡的なことと言えましょう。

◇言語は、文化や生活を伝承するDNA◇

そもそも言葉とは何でしょうか。言葉は、単なる意思伝達の手段ではありません。言葉は言の葉(ことのは、凝止ノ葉)ともいい、心の中に凝り止まったものが、ハ(葉・歯・刃・羽)となって出たものです。ハは払う、晴れる、腫れるなどのハでもあり、出ていくものを意味します。まさに生命の発露、魂のほとばしりが言葉なのです。ただの音波ではなく、念エネルギーを持っているのが言葉であると。

そして、言葉によって構成されるのが言語です。言語によって、国民が維持してきた伝統文化や、民族が継承してきた固有文化の連続性が保たれます。

言語は、文化や生活を伝承するDNA(遺伝情報の本体)であるとも言えましょう。フランス語ならフランス文化を、ドイツ語ならドイツ文化を伝える基になっております。日本語の場合は、原日本語と言っていい大和言葉が、とりわけDNAの役割を果たしているのです。

◇言語は、3世代であっけなく亡びる!◇

言語は今、世界的に消滅の危機にあります。世界の言語は約6千あるとされていますが、21世紀の百年間で半減するそうです。ということは年間にして約30の言語が消滅し、約2週間に1言語が消えていくというスピードになります。話者が減ってしまい、遠からず地上から消滅しそうな言語が沢山存在している中、話者が明らかに拡大している言語は、英語、スペイン語、中国語の3つに過ぎません。

言語の“生命力”は意外に脆く、3世代であっけなく亡びます。正確に言えば、3世代にまたがる間に消えます。

ここに3世代で暮らすケルト人の家族がいるとします。祖父母は民族固有の言語で育ちましたから大丈夫ですが、息子夫婦は英語圏なりフランス語圏の都市で働いているため、次第にケルト語を忘れていきます。孫たちになると、学校でケルト語を禁止されていたり、ケルト語を使うとバカにされたりするため、殆ど覚えなくなってしまいます。

そうして言語が消えていく現象が、特に半島などの「言語の境界線」で生じてきました。イギリスのコーンウォール地方では、1777年に最後の話者であったドリー・ペントリースという人が亡くなったときに、ケルト系の言語であるコーンウォール語が消えたそうです。

また、フランスのブルターニュ地方では、やはりケルト語系のブルトン語が話されています。ここでも同様の現象が起こっていて「言語の境界線」が次第に半島の先へ向かって移動していましたが、現在では言語政策が変更され、ブルトン語を保護する方向に変わったようです。(続く)