その52 人間の幸せは、分かり合える人たちと暮らすことによって得られる

同じ人種が集まって同じ土地に住み、同じ言語を話して同じ文化・習慣のもとに生活し、共通の信仰を持っている人々のことを民族と呼びます。また、国家への帰属意識を有しながら、その国に国籍を置いて生きる人々のことを国民と言います。

日本の場合、ほぼ一民族(大和民族)で国民が形成されていますが、通常はいくつかの民族が集まって一つの国家が成立しています。あるいは、一つの民族が国境をまたいで、二つ以上の国家に分散している場合も沢山あります。

人間の幸せは、分かり合える人たちと暮らすことによって得られます。嬉しい事があれば共に喜んでくれ、憤る事が起これば一緒に嘆いてくれ、悲しい出来事に見舞われたなら側に来て泣いてくれる人がいてこそ、私たちは前に向かって生きていけます。

その「分かり合える仲間」というのは、やはり言語や文化、習慣や信仰が同じである人々の中に、より多く存在しております。それらが一緒でないと、共通の価値観というものが生まれず、共通の価値観がなければ、喜怒哀楽などの感情がずれてしまうからです。

本当の世界平和は、その共通の価値観で固まった民族同士が、互いに尊敬し合い、お互い他民族の伝統精神や文化・習慣を認め合うところから起こるのではないでしょうか。民族の存在が摩擦や紛争の元になっている場合が多いからこそ、民族同士の綜和共生を図る王道政治が必要であると思うのです。

◇言語を消滅の危機から守りたければ、ホタルの保護に学べ◇

さて、言語の維持伝承は「言語生態系」が基盤となります。言語生態系とは、「民族固有の言語」によって生活が成り立ち、世代を越えてその言語が話され続ける「場」のことです。

世界中の多くの言語が消滅の危機にさらされていると述べましたが、その対策としての言語政策は、この言語生態系を守ることが基本とならねばなりません。それは、ホタルを保護したり、再生させたりするときのやり方と似ています。

ホタルの保護・再生に必要となるのが、ホタルの餌となるカワニナ(川蜷、巻き貝の一種)と、カワニナが棲む清流です。そういう環境が整わないと、世代交代は難しくなるのです。言語の保護も、話者の語る言葉の録音や、その分類整理といった研究で終わることなく、その言語で生活が成り立ち、次世代に継承される場=空間を残さなければならないというわけです。

国語=日本語も、何度か危機にさらされてきました。明治維新後は、漢字の廃止論や、国語のローマ字化案、さらに英語の公用語化案などが提唱されました。また、大東亜戦争後、フランス語を国語にしようという意見が識者から出されます。旧漢字から新漢字へ、旧仮名遣いから新仮名遣いへの転換という簡略化は実際に行われ、古典の読解力が損なわれていき、少なからず文化の断絶が起こってしまいました。(続く)