その58 いわゆる「50音表」は、一音一音にイメージがあることを示している

母音の「あ」は開く(開明)、「い」は命(積極)、「う」は閉じる(閉塞)、「え」は枝分かれ(伸長)、「お」は大きい(偉大)という意味があるということを先に述べました。母音は子音の母体ですから、これらの意味は、各段の子音にも影響を与えます。ア段・イ段・ウ段・エ段・オ段、それぞれの段に共通した意味が現れるのです。それは次の通りです。

開く意味の「あ」を母体とするア段の子音「か・さ・た・な・は・ま・や・ら・わ」には、概ね共通して、輝く、栄える、高い、並ぶ、晴れる、八雲、などのように開き広がる意味がある。

命の意味の「い」を母体とするイ段の子音「き・し・ち・に・ひ・み・い・り・ゐ」には、概ね共通して、息(いき)、生きる、決める、示す、血筋(ちすぢ)、賑やか、匂(にほ)ひ、秀でる、人(ひと)、身(み)、水(みづ)、率(ゐ)る、居(ゐ)る、などのように命の元と、前に出る積極性や存在感の意味が
ある。

閉じる意味の「う」を母体とするウ段の子音「く・す・つ・ぬ・ふ・む・ゆ・る・う」には、概ね共通して、組む、すくむ、包む、沼(ぬま)、含む、群れる、結わえる、などのように閉じて内部が充実する意味がある。

枝分かれの意味の「え」を母体とするエ段の子音「け・せ・て・ね・へ・め・え・れ・ゑ」には、概ね共通して、毛、背、手、根、辺、芽、笑(ゑ)む、などのように元から伸びていく意味がある。

偉大な意味の「お」を母体とするオ段の子音「こ・そ・と・の・ほ・も・よ・ろ・を」には、概ね共通して、凝る、沿う、止まる、乗る、秀(ほ)、茂(も)、代(よ)、長(をさ)などのように重いイメージや、偉大で着実な意味がある。

こうして、母音の意味が子音に反映することで、大和言葉48音が成立しています。「あいうえお」それぞれに意味があり、カ行~ワ行それぞれに意味があり、さらにア段・イ段・ウ段・エ段・オ段それぞれに共通した意味があるというわけです。

子音の各行と母音の各段が、縦横に並んでいる一覧表を見たことがありませんか。いわゆる「50音表」です。本来あれは、日本語が自然発声音で成立していることと、それによって一音一音に意味やイメージがあることを示している表なのです。

それから、ア行~ワ行の各行のイメージを、硬くて強い「剛」と、柔らかくて優しい「柔」に分けることが出来ます。カ行・タ行・ハ行が「剛」、サ行・ナ行・マ行が「柔」となり、母音のア行と半母音のヤ行・ワ行が中間に位置します。

これらを剛から柔に向かって横に順に並べれば、カ行→タ行→ハ行→ア行→マ行→ナ行→サ行となります。ヤ行とワ行はア行の下に置かれ、変化・活動を表すラ行は、別格の剛音としてタ行の下あたりに位置するとお考え下さい。

以上が、大和言葉48音に、それぞれ意味があることの理由です。日本語は、一音一音に独自の意味やイメージが存在するのです。なお、一音一音の詳しい解説は、拙著『縄文のコトダマ』博進堂をご覧下さい。

戦前までは、音義学という「言葉の音そのものの意味を研究する学問」がありました。しかし、戦後は絶学となってしまいました。

なお、上代仮名(記紀万葉時代)が8母音だから、神代の昔から「あいうえお」5母音が国語の基本という考え方は成り立たないという説があるようです。でもそれは、大陸から入って来た漢字が8母音だったのであり、古い日本語が8母音であったというわけではありません。国語は昔も今も5母音が基本です。(続く)