その79 自分が変わらなければ国は変わらず、天下も良くならない…

中国思想には、いくつかの特徴があります。それらを知りますと、思想の全体像を掴めることになります。

その第一は、今述べた通り経世的、現実的であるということです。例えば『論語』に、「民から信頼を受けることなら出来るが、民に情報をしっかりと知らせるのは難しい」と書かれた箇所があります。指導者が民衆に対して、自分という人間を信じて貰うことは可能だが、伝えたい内容を細かく知らせるのは不可能に近いという意味です。

確かに役所などが市民に何かを告知する場合、広報紙やホームページなど、いろいろな媒体を使って繰り返し伝達に努めていくのですが、いざそれが実施される場面になると「そんな話、聞いてないよ」とか、「いきなり言われても困るじゃないか」とかいった反応が返ってくるようです。

その伝達役が議員なら、街頭演説や政治報告会、SNS、あるいは地区を足で回って啓蒙します。もうこれ以上、お知らせする方法が無いというくらい尽力するのですが、やはり「知らなかった」という反応が多いことに、いつも苦労させられるのだそうです。

でも、人間を信じて貰っているならば、「細かい点までは分からないが、あなたがやろうとする事ならば賛成するよ」という返事を頂くことが出来ます。だから、何よりも信頼関係が重要になるわけです。

そもそも「民」は、天下国家の本体です。常に民を意識することで、経世的かつ現実的であろうとするのが中国思想の第一の特徴なのです。

第二は、自己確立から入るということです。儒学の経典である『大学』に、「修身斉家治国平天下」という言葉があります。まず身を修め、家をととのえ、国を治め、天下を平和にするという意味です。『大学』には、この逆も書かれています。「平天下」のためには「治国」が、「治国」のためには「斉家」が、「斉家」のためには「修身」が必要であると。

こうして、修身や斉家という自己確立から始めることで、治国と平天下が達成されていくのが儒学の基本です。自分が変わらなければ国は変わらず、家庭が円満でなければ天下も良くならない。それが、中国思想が教える指導者の心得という次第です。

第三は、「天」の思想です。天は、「人(=大)」と「一」を組み合わせた漢字です。「一」は、人の頭上にあるものを示しています。即ち人の上に存在する大いなるものが天であり、人と天を結ぶことで東洋人は成長していきます。この考え方によって、中国思想は偉大さを増しました。

孔子の後継者とされる孟子は、「自分の本性や個性を知れば、天の意志を知ることになる。我が本性や個性を養うのは、天の期待に応えるためである」と教えています。この自分の本性を「天性」と言います。天性は、天から頂いた我が個性のことです。

もしも天の意志を知りたければ、自分の本性・個性を知るのが一番の方法です。本性や個性は天分とも言い、天から頂いた「我が持ち分」が天分となります。(続く)