その100 自由自在の力を身に付け、利他大乗に生きるための行

密教には、いろいろな行があるでしょうが、基本は「三密」です。「身密(しんみつ)」「口密(くみつ)」「意密(いみつ)」それぞれについて、要点を述べておきます。

「身密」は身体を用いる行で、その基本は「手」にあります。手には大きな働きがあり、脳神経においても手は広い領域を占めております。

密教では両手を合わせて独特な印(いん)を結び、自分の力をしっかり引き出し、それを統一します。治療することを「手当て」と言うように、手から強い力が出ているのです。合掌も一つの印です。

「口密」は言葉を用いる行で、真言(しんごん)を唱えます。真言はマントラともいう一種の呪文です。

少し難しい表現になりますが、言葉による波動(情報)は、宇宙の波動(情報)と重なります。人間が発する言葉がバイブレーションなら、宇宙の活動もバイブレーションであり、人間が発する言葉がエネルギーを持った情報なら、宇宙に広がる「光(エネルギー)」も時空を創る情報です。

宇宙に広がる光、それは大宇宙が発する言葉そのものであると言えるでしょう。生成発展する大宇宙の、変化活動による波動そのものが言葉だと。即ち人間も大宇宙も、共に言葉を発しているのです。

そうであれば、人間と宇宙は、言葉による波動で互いに通じ合えることになります。言葉によって、小宇宙である人間と大宇宙は響き合うのです。

人間は本当に偉大です。言葉を使うことによって自分と宇宙を繋(つな)ぎ、大宇宙進化の先頭を行くことの出来る存在なのですから。

それから、言葉には「見える世界と見えない世界を繋ぐ」という、言霊(ことだま)の働きがあります。既に実現した世界が「見える世界」なら、まだ夢や計画の段階が「見えない世界」です。両者を結ぶのが「構想の宣言」や「志の表明」で、それらを言葉として表しますと、言霊となって実現がグッと近付きます。

もう一つが「意密」です。意は心のことで、心に仏を観じる(観想)行を、曼荼羅(まんだら)を使ってやります。

曼荼羅は、宇宙の真理を表現した諸仏の大集合図絵です。代表的な曼荼羅は、胎蔵界(たいぞうかい)曼荼羅と金剛界(こんごうかい)曼荼羅です。

胎蔵界曼荼羅は「大日経」という経典に基づいており、物質原理や女性原理を表しています。中央の大日如来が大宇宙を遍く照らしている図となっており、それによって宇宙の発展形態が示されています。大日如来の光が全宇宙に広がることで一切が成立している様子(物質原理)と、女性の胎内で生命が成長するように大宇宙が生成発展する様子(女性原理)が描かれているのです。

金剛界曼荼羅は「金剛頂経」という経典に基づいており、精神原理や男性原理を表しています。基本となる大枠が9マスあり、右下から渦巻き状に進んで中心(内なる宇宙)に達するように描かれています。心が進歩向上し、即身成仏するプロセス(階梯)というわけです。即身成仏は、特に男性の役割であると考えられたのでしょう。

胎蔵界曼荼羅は広がる大宇宙を、金剛界曼荼羅は自己の内なる宇宙を表現しており、二つの曼荼羅の観想によって、宇宙と自分を結んで梵我一如となっていきます。

そうして、曼荼羅の前に背筋を伸ばして座り、手に印を結び、真言を唱えながら観想を行います。そうすれば、仏の力が我に至り、我の力が仏に及びます。前者が「加」、後者が「持」です。合わせて「加持(かじ)」となり、そうして祈ることを加持祈祷と言います。加持祈祷は、梵我一如によって自由自在の力を身に付け、利他大乗に生きるための行なのです。

仏壇の前に座り、合掌して御経を上げ、仏や先祖と結ばれていることをイメージする。そうして目に見えない力を頂いたなら、それは立派な三密の行ということになります。(続く)