その103 心の進化、その十段階のプロセスが凄い!

空海の思想を集大成させた著書が『秘密曼荼羅十住心論』です。『秘蔵宝鑰』は、それを要約した本です。

『秘密曼荼羅十住心論』、略して『十住心論』には、空海による独創的綜合思想がよく示されています。「住心」は心の住むところであり、段階を経て向上していきます。

空海は「住心」を十段階に分け、「心の進化プロセス」としました。『十住心論』には、これまで封印されていた「日本人の使命」を解くカギが隠されていると筆者は思っています。では、その要点を述べていきましょう。

「第一住心」は、動物的な本能のままに生きる段階で、倫理以前の世界です。この段階の人たちは、利を貪り欲のみに生き、他者を攻撃し、また他者から排撃され、憤怒や嫉妬の世界にはまって苦しんでいます。

第一住心に付けられた名前は「異生羝羊心」(いしょうていようしん)です。「羝羊」は雄羊のことで、人々は雄羊のように食欲と性欲が旺盛です。欲望が盛んなため、世の中に煩悩と悪が満ち、互いに眼前の利を貪っては争い合うことになります。レベルの低い政治の世界などが、これにあたります。

「異生」には、さまざまな「異」なった世界に形を変えて「生」まれ変わるという意味と、聖者と「異」なる「生」類、つまり成長することのない凡夫という意味があります。

この第一住心は、永遠の輪廻の苦しみを繰り返す倫理以前の世界であり、次の段階へ上がるためのカギは「善心」です。なお、すべての段階に向上のカギがあります。

「第二住心」は、道徳心が芽生え、善いことをしたいと思うようになる段階です。善心が芽生えてくる倫理的世界であり、人に物を施す心、社会における善なる心が起こります。

勿論それは良い心なのですが、他人に良く思われたい、認められたい、誉められたい、自慢したいという、子供じみた心にも覆われています。だから、他人の欠点が目に付き、常に誰かを裁こうとすることになります。

第二住心に付けられた名前は「愚童持斎心」(ぐどうじさいしん)です。「持斎」とは斎法を守ることで、その一つに、正午を過ぎたら食事を摂らないという規則があります。午後に食事を摂らなければ、自分の食べる量を減らして他人に施すことが出来ます。それが人に物を施す心、善なる心となります。

但し、それは目に見える回りに対してのみであり、立身出世主義者や偏狭な道徳家になり易いという問題点があるわけです。それから「愚童」は愚かな子供のことです。

第二住心から第三住心へ移るためのカギ、それは「宗教心」です。カギを手に入れなければ、永遠にその段階で終わってしまいます。

次の「第三住心」は、宗教心に目覚め、神様や仏様が守ってくれるから大丈夫という気持ちになる段階です。そこには、おのれを包む大なるものへの依頼心があり、来世に天上界に生まれることを信じ、生死の不安から離れられた人たちが「住むところ」となっています。

但し、何となく救われた・安らいだという感覚が生じた状態に過ぎず、そこで得られるものは一時の安らぎでしかありません。「神様が守ってくれるから本当にハッピイなの」といった幼稚な宗教心であり、観念的に何となく救われたという安心感が漂っている“癒し系”レベルの段階なのです。

この第三住心は「嬰童無畏心」(ようどうむいしん)と言います。「嬰童」は幼子、「無畏」は畏れの無い様子です。母親に抱かれた、幼子のような安心感が嬰童無畏心です。

第三住心から第四住心へ進むためのカギ、それは「否定」です。一度自分を否定してみることによって、この幼な心から抜け出さねばなりません。(続く)