その9 心理戦から戦いは始まっている!

戦争は人間が起こすものですが、そもそも人間は心の動物です。だから戦いの基本は、心理戦にあるということになります。駆け引きや腹の探り合いなど、心理戦から戦いは始まっているのです。

《孫子・計篇その四》
「戦争には、裏をかく心理操作が必要だ。出来るのに出来ないふりをし、必要なのに不必要と思わせ、近いのに遠くに見せかけ、遠いのに近いかのように示す。

そして、敵が欲する利を見せては誘い出し、混乱していればそれに乗じて奪い取り、充実しているときは防備に努め、強ければ真っ向からの戦いを避ける。また、わざと怒らせては冷静さを失わせ、謙虚に見せては驕(おご)り高ぶらせる。敵が安楽であれば疲労させ、和親団結しているときは離間させるのである。

その上で、敵の手薄なところを攻め、不意を突くのだ。これが兵法家の言う勢の起こし方であり、状況に応じた取り組みであるから事前に伝えることは出来ない。」

※原文のキーワード
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「裏をかく心理操作」のことを「詭道」と言います。「詭」は裏をかいて人を欺(あざむ)くことであり、「道」はその法則や方法、手段のことです。

「裏をかく」こと自体は卑怯な行為であり、正々堂々と戦わねば、勝っても意味が無いのは当然のことです。戦争にも、戦時の法や、戦いのしきたり、一定の礼というものが存在します。それらがある以上、汚い手を使うのは美意識に外れますし、戦う相手を敬い合えないようでは、単なる暴力沙汰となってしまいます。

しかし、食うか食われるかという厳しい状況の中で陣取り合戦が繰り返されているのですから、常に気を張っておかねばならず、心理戦への対応を怠るようではいけません。武道の試合でも、フェイントを掛けたり、わざと隙を作って敵に攻めさせたりします。心理戦の重要性を無視するわけにはいかないのです。

そこで、孫子は「出来るのに出来ないふりをし、必要なのに不必要と思わせ、近いのに遠くに見せかけ、遠いのに近いかのように示す」と述べました。

「出来るのに出来ないふり」をするのは、敵の警戒心を解くためです。「必要なのに不必要と思わせ」るのは、敵に弱みを覚られないためです。「近いのに遠くに見せかけ」るのは、敵を油断させるためです。「遠いのに近いかのように示す」のは、敵に圧力を掛けて怯(おび)えさせるためです。(続く)