その12 長期戦は避け、短期で終わらせるよう作戦を練れ!

続いて『孫子』第二篇の「作戦篇」です。戦争の勝敗は、戦場だけで決まるものではありません。攻めていく場合、戦場まで距離があるのが普通で、そこに食糧や物資をどう届けるかが重要になります。この補給路の確保という仕事は、とても地味ですが、勝敗を決する上で極めて重要な任務となります。

この食糧の補給以外にも、戦争には莫大な費用がかかります。ですから、たとえ拙い戦い方であっても早期に終わらせるのがよく、巧みな戦い方だが長引かせてしまうというのは全然よくありません。戦争ほど国力を疲弊させるものは無いからです。

《孫子・作戦篇その一》
「孫子は言う。戦争となれば、戦車千台、輸送車千台、武具を着けた兵士十万人に、千里の遠方まで食糧を送らねばならない。

それから、戦争にかかる国内・国外の経費、外交使節の接待、膠(にかわ)や漆(うるし)といった武具の補強に使う材料、戦車や甲冑の補充などで、一日に千金もの費用が必要となる。そうして後(のち)に、やっと十万の軍隊を動かせるのである。

戦争になってたとえ勝っても、それが長引けば、兵士は疲れ、士気が衰える。敵の城を攻めれば力尽き、長期間軍隊を戦場に駐留させれば国費は足りなくなる。

こうして兵士が疲れ、士気が衰え、国費を使い果たして国力が尽きれば、その隙に乗じ、諸侯は決起して攻めてくるだろう。そうなったら知謀の人がいても、その後を受けて回復させることは不可能だ。

だから、戦争の心得として拙速(せっそく)は聞くが、いまだ巧久(こうきゅう)を見たことはない。戦争が長引いて国家に利益があったという例(ためし)は無いのだ。戦争の損害を知らないでいて、戦争の利益を知るということはあり得ぬのである。」

※原文のキーワード
戦争…「用兵」、戦車…「馳車」、輸送車…「革車」、千台…「千乗」、武具を着けた兵士…「帯甲」、国内・国外の経費…「内外之費」、外交使節の接待…「賓客之用」、膠(にかわ)や漆(うるし)といった武具の補強に使う材料…「膠漆之材」、戦車や甲冑の補充…「車甲之奉」、十万の軍隊を動かせる…「十万師挙」、長引けば…「久」、兵士は疲れ…「鈍兵」、士気が衰える…「挫鋭」、敵の城を攻めれば力尽き…「攻城則力屈」、長期間軍隊を戦場に駐留させれば…「久暴師」、国費は足りなくなる…「国用不足」、国費を使い果たして国力が尽きれば…「屈力殫貨」、隙…「弊」、決起して攻めてくる…「起」、見たことはない…「未賭」、戦争の損害…「用兵之害」、戦争の利益…「用兵之利」、あり得ぬ…「不能」

船や鉄道といった大量輸送手段が無かった時代では、食糧や物資の輸送は人力に頼るしかありませんでした。人力で運ぶ以上、輸送担当者の食糧も必要になるわけで、輸送に一週間かかれば、日に三食で一人につき21食分が費やされます。この必要量も、バカに出来ない負担であったと思います。

敵にとっては、この輸送路を絶つというのが有効な攻め方になります。ですから、前線ほどではないにせよ、輸送作業にも危険が伴うことになります。

「作戦篇」では、戦場の戦いにばかり目が行ってしまう弊害を避け、視野を大きく取るよう読者に促しています。長期戦は避け、短期で終わらせるよう作戦を練れ!というのが「作戦篇」の主題なのです。(続く)