その19 摩擦や対立が起きても、結果的に自国を強くする逞しい政治が必要

つまり、孫子の考える勝利は、単に戦闘に勝てばいいというものとは違いました。常に国家の存立と国民の幸福を考えた上で、最悪の選択である「疲弊するだけの長期戦」を避けつつ、「短期で勝って益々強くなる」よう努めるところに真の勝利があったのです。そこで、戦利品である敵の兵車を活用するなどして、戦いながら自軍が増強され、転んでもタダでは起きぬよう努めよと教えたわけです。

戦争は近代戦になるほど総力戦の様相を呈し、死傷者に占める一般人の割合が増えてきました。そして、兵士同士の戦闘ばかりが戦争なのではなく、経済戦争や貿易戦争、ハイテク戦など、広い分野に戦いが及ぶようになりました。それだけに、可能な限り早く戦いを終わらせられるよう、対立や摩擦の“落とし所”をしっかり見極めなければなりません。どこまで攻め、いつどのように終わらせ、そして自国を強めるかと。

考えてみれば、孫子の生きた春秋時代末期から戦国時代にかけてこそ、まさに国同士が存立を懸けて覇を競い合う「長期の乱世」でした。チャイナ全体が長期戦という状況下で、個々に発生する戦争(戦闘)を、どう短期で終わらせるかという知恵が「孫子の兵法」であったという見方が成り立つでしょう。

21世紀の今、人類は東西文明の交代期に突入しています。“文明の衝突”となった米中貿易戦争をはじめ、泥沼の長期戦が世界を覆いそうな気配です。こういう時代は、長期の戦いに巻き込まれぬよう注意しながら、どうしても起きてしまう個々の対立や摩擦を“巧みに使って”自国の立場を優位に仕向け、結果として「益々強くなる(益強)」という逞しさやしたたかさのある政治が求められます。(続く)