その20 百戦百勝は最善ではない

次は『孫子』第三篇の「謀攻篇」です。「謀攻」とは知謀を駆使して攻めることであり、戦闘しないで勝つことを最上とします。

《孫子・謀攻篇その一》
「孫子は言う。戦争の原則では、敵国を痛め付けないで屈服させるのが上策で、敵国を撃破して屈服させるのは次善の策だ。敵の軍団を痛め付けないで屈服させるのが上策で、敵の軍団を撃破して屈服させるのは次善の策だ。
敵の旅団を痛め付けないで屈服させるのが上策で、敵の旅団を撃破して屈服させるのは次善の策だ。敵の中隊を痛め付けないで屈服させるのが上策で、敵の中隊を撃破して屈服させるのは次善の策だ。敵の小隊を痛め付けないで屈服させるのが上策で、敵の小隊を撃破して屈服させるのは次善の策だ。

そういうことから、百戦百勝は最善ではない。戦闘しないで敵兵を屈服させるのが最善なのである。」

※原文のキーワード
戦争の原則…「用兵の法」、痛め付けないで屈服させる…「全」、上策…「上」、撃破して屈服させる…「破」、次善の策…「次」、軍団…「軍」、旅団…「旅」、中隊…「卒」、小隊…「伍」、最善…「善之善」、敵兵…「人之兵」

軍隊の人数は諸説ありますが、「軍団」は12500人、「旅団」は500人、「中隊」は100人程度、「小隊」はそれ以下となります。規模(兵士数)の大小を問わず、どんなレベルでおいても「戦闘しないで敵兵を屈服させるのが最善」であるという点に注目させられます。

軍団同士の大きな戦闘は避けるが、小規模なら戦っても構わないというのではなく、どんな戦闘も可能な限り避けよと教えているのです。即ち知謀は、いかなる戦いにも必要とされる知恵というわけです。

戦争は、刀や槍で斬り付け、弓や鉄砲を放つことばかりではありません。そもそも戦争は政治の延長線上にあるものであり、政治の目的に適うかどうかを常に考慮しなければなりません。

政治の目的、それは国家の存立と国民の幸福にあるのですから、敵味方共に疲弊し、亡国と化すような戦いは、たとえ百戦百勝であったとしても避けねばならない愚行となります。双方とも滅びかねない長期の激戦をしたら、その隙を狙って必ず第三国が侵入して来るでしょう。

では、指導者はどんな知謀を用いるべきか。「戦闘しないで敵兵を屈服させる」ための策謀は、まず相手の狙い(陰謀)を見抜き、外交で敵を孤立させることから始まります。(続く)