その24 国家が持つ膨張侵略性を、どう抑え、適度にコントロールするか

以上のことをまとめて、孫子は次のように述べました。「戦上手は、敵軍を屈服させるのに戦闘をしない。敵城を落とすのに攻撃をしない。敵国を破るのに長期戦に持ち込まない。必ず痛め付けないで全うする方法をもって、天下に覇を争うのである」と。

そうして「兵力を損なうことなく」相手を制圧するのが「完全な勝利」であり、それが「知謀による」真に有益な攻め方ということになります。

ところで、人間は一人では生きられない社会的動物ですから、仲間とムラ(群れ)をつくり、クニを形成させます。クニは、習慣や文化、言語、神話、信仰、歴史などを共有する共同体のことです。

そのクニ同士が平和に共生出来ればいいのですが、どうしても張り合い、縄張り争いを起こし、ときに戦争となります。この国家が持つ性(さが)と言っていい膨張侵略性を、どう抑え、適度にコントロールするか。そこに人類の英知が掛かっており、孫子の狙いも、おそらくそこにあったと思うのです。

そもそも目的は、自国の存立と国民の幸福にあります。そうであれば、敵から攻められてはいけないものの、こちらから無理して敵を攻撃する必要もありません。要は、敵を屈服(おとなしく)させればいいのです。

そこで行うのが、敵側の事前準備(同盟など)を潰し、その侵略の意図を挫くという作業です。戦闘するにはリスクが大きいと思わせ、「今は攻められない」と諦めさせられたら勝利です。それが外交戦の意味なのです。

この外交戦と共に、相手国の首脳に対する説得が重要になります。有能でプライドの高い指導者ほど恥を嫌いますから、どこに正義(王道政治)があり、どの選択に両国民と人類の幸福があり、どうすれば国際社会の評価が高まり、指導者としての名声を得られるかを懇々説諭(こんこんせつゆ)するのです。その上で、戦わないことによる相手と相手国の利益を覚らせ、正義と利益の両面から説き伏せていけば、戦闘しないで勝てる道が、きっと切り開かれるはずです。(続く)