その25 真面目な人ほど、撤退のタイミングを失って大敗する…

戦いの上手な人というのは、無駄な戦いを上手に避けられる人のことを言います。そういう人は、自分(自軍)の実力を正しく知っていて、常に冷静さを保ち、無益な戦いをしません。

反対に、成果を焦り、面子(めんつ)に拘(こだわ)り、敵に煽(あお)られると忽(たちま)ち頭に来て冷静さを失うような人は、どれほど強力であっても、まんまと敵の策略に填(はま)ってあっけなく負けてしまいます。

そこで、自軍と敵軍の力量を客観的に比較した上で、どういう戦い方を採るべきかについて、孫子は次のように教えました。

《孫子・謀攻篇その三》
「戦争の原則では、十倍の兵力なら敵軍を囲み、五倍の兵力なら敵軍を攻め、二倍の兵力なら敵軍を分断させ、互角の兵力なら奮戦し、劣勢ならしっかり逃れ、勝利しそうになければきっぱりと戦いを避ける。

小勢力の軍が意志堅固で頑(かたく)なな場合、大勢力の軍の擒(とりこ)になるだけである。」

戦争の原則…「用兵之法」、十倍の兵力…「十」、敵軍を囲み…「囲之」、分断…「分」、互角の兵力…「敵」、奮戦…「能戦」、劣勢…「少」、しっかり逃れ…「能逃」、勝利しそうになければ…「不若」、きっぱりと戦いを避ける…「能避之」、小勢力の軍…「小敵」、意志堅固で頑な…「堅」、大勢力の軍…「大敵」

「十倍の兵力なら敵軍を囲」めと言ったのは、そこまで差があれば、敵を囲んだだけで相手の戦意を喪失させられるからです。「五倍の兵力なら敵軍を攻め」よと言ったのは、その兵力差なら戦闘して必ず勝てるからです。「二倍の兵力なら敵軍を分断させ」よと言ったのは、こちらの勢力は倍だから大丈夫などと安心せず、相手を分散させることで必勝の構図を作れということです。

これらは「どうすれば兵力を損なうことなく、早期に戦闘を終わらせられるか」ということを基準にしています。

それから「互角の兵力なら奮戦せよ」というのは、兵力が等しければ、意欲と気迫の強い方が勝つということを教えています。いわゆる「気合いで勝て」と教える精神論や根性論は、実力が伯仲している場合にこそ有効な心得なのでしょう。

「劣勢ならしっかり逃れ、勝利しそうになければきっぱりと戦いを避けよ」。これは卑怯な振る舞いと思うかも知れませんが、全然そうではありません。大義のため、負けると分かっていても戦うべき場合は別にして、小さな体面に拘り、勝利への個人的な欲に囚われ、引くに引けなくなって自滅してしまう道を、決して選択してはいけないということを諭しております。

特に「小勢力の軍が意志堅固で頑(かたく)な」である場合が大変です。意志にブレが無くてしっかりしている分、その真面目さが徒(あだ)となって撤退のタイミングを失い、結局「大勢力の軍の擒(とりこ)に」されてしまう恐れがあるというわけです。(続く)