その26 指示命令が二つの系統から出されると、現場は混乱状態に陥る

指示命令が二つの系統から出される。そのため現場は、どちらの指揮を受け入れたらいいか分からず混乱状態。そうなる原因として、状況をよく知らない君主による将軍への介入があります。

国家を統治するのが君主、戦争を指揮するのが将軍です。この両者の関係が緊密で、互いに疑い合うようなことが無ければ正常と言えます。君主は将軍を信頼し、現場の指揮を全面的に任せ、将軍は君主を忠実に補佐し、託された責務をしっかり果たすという状態です。そういう関係が成り立っていれば国家は強くなりますが、君主と将軍の間に不信感が生じてしまうと国家は弱くなってしまいます。

そこで孫子は、君子が知っておくべきこととして、進むべきか退くべきかという正確な状況、軍隊全体をまとめている軍事行政、軍隊全体を動かしている命令系統の三つがあり、これらに無知なまま補佐役である将軍を無視し、それを飛び越して勝手に指示命令を出してはならないと教えました。

《孫子・謀攻篇その四》
「将軍は、国家の補佐役だ。君主と補佐役が緊密な関係であれば、国家は必ず強くなるが、君主と補佐役の関係に隙間(すきま)が生じていると、国家は必ず弱くなる。そこで、君主が軍事について心配しておくべき点が三つある。

第一は、軍隊が進んではいけない状態であることを知らずに(君主が)進めと命令し、軍隊が退いてはいけない状態にあることを知らずに(君主が)退けと命令することだ。これでは軍隊は(将軍ではなく)君主に繋がれてしまって動けなくなる。

第二は、全軍の事情を知らないにも関わらず、(君主が)軍政について将軍同様に口を出す場合である。これでは軍隊は混乱するばかりとなる。

第三は、全軍の命令系統を知らないまま、(君主が)任命を将軍同様に行う場合である。これでは軍内部に不信感が起こってしまう。

こうして全軍に惑いと疑いが現れていれば、すぐにでも外国勢力が攻め込んで来るだろう。これが、自軍を乱して勝利を失うということである。」

※原文のキーワード
補佐役…「輔」、緊密な関係…「周」、心配…「患」、繋がれる…「縻」、将軍同様…「同」、混乱…「惑」、命令系統…「権」、任命…「任」、すぐにでも…「則」、外国勢力…「諸侯」、攻め込んで来る…「難」、自軍を乱し…「乱軍」、勝利を失う…「引勝」 (続く)