その27 わけも分からないまま、しゃしゃり出るようなトップになってはいけない

現場は常に変化しており、それへの対応が現地にいる将軍の役割となります。攻撃と防御が繰り返される戦闘において、進むべきか退くべきかという判断に後れを取ることは許されません。

非常に熱い物に触れたとき、私たちは反射的にサッと手を離します。それは、脊髄で作用する反射神経(反射中枢)の働きです。脳神経(大脳皮質)の判断を仰いでいたら火傷してしまうようなとき、生命体は脊髄反射で対応することで身を守っているのです。

これと同じで、いちいち本国にいる君主に意志決定を求めていたら手遅れになってしまうときほど、現場の将軍の素早い判断が必要になります。今日のように情報システムが整っており、離れたところにいる君主にも正確な情報がリアルタイムで届けられる時代であっても、やはり現地の空気を掴んでいる将軍の判断は大事です。

重要なのは、トップが現場に口を出し過ぎないということです。孫子は、その第一として、君主が刻々と変わる現場の動きを知らないまま、進退を命じてはならないと諭しました。そのポイントは、君主が現場に精通することと、将軍が下すべき命令を君主が代わりにやってしまわないことの2点にあります。

即ち、現場の情報を知った上で、将軍の存在価値を立てることの必要性を説いているのです。孫子は、軍隊が将軍ではなく「君主に繋がれてしまって動けなくなる」ことを何よりも心配したのです。

第二では、君主が現場の状況を知らないまま「軍政に対して将軍同様に口を出」さないよう警告しました。現場には、その土地に合った統制のやり方というものがあります。君主が立前や原則を重んじるあまり、現場に合わない指示を出してばかりいれば、当たり前ですが「軍隊は混乱」を免れません。

第三では、トップ自身が指揮系統を逸脱することの無いよう注意しました。現場の軍隊全体の「命令系統を知らないまま」君主が指揮権限を振るえば、「軍内部に不信感が起こってしまう」のです。

組織で動く軍隊にとって、指揮系統は神経系統と同じです。会社組織も同様ですが「社長の俺は別格だ」という意識のままでいると、神経の育たない状態からなかなか脱皮出来ません。社長が命じないと(動かないと)何も進まず、社長が息切れしたときが会社の終わるときといった事態に陥るわけです。

そうして組織全治に「惑いと疑いが現れて」くれば、「すぐにでも外国勢力が攻め込んで」来ます。敗因は、まさにこちらにありました。孫子はそれを「自軍を乱して勝利を失う」ことだと率直に教えました。

こうして、君主の無知を戒めると共に、将軍が担当・掌握すべき進退決定・現場統制・指揮系統を、君主が代わりにやってしまわないよう警告を発したのが「謀攻篇その四」なのです。

わけも分からないまま、しゃしゃり出るようなトップになってはいけないのは勿論のことです。さらに、現場をよく知ることで、将軍の判断を理解するということが大事です。そうして信じて任せられるから、あれこれ現場に対する細かい指示は出さなくて済む。トップと補佐役は、常にそういう関係でありたいものです。(続く)