その29 指導者と国民が同じ目標を持っていれば勝つ

「彼を知り己を知れば、百戦して殆(あやう)からず」。これは『孫子』の中で、最も知られた言葉の一つです。敵を知り味方を知れば決して負けないというこの教えを、政治や経営の心得としている人は現代にも沢山います。

でも、この言葉には前段があります。前段に示された勝利を見通すための五カ条を知ってこそ、「百戦して殆(あやう)からず」の意味が明確になります。

《孫子・謀攻篇その五》
「勝利を見通すための条件が五つある。
一、戦っていいのか、戦ってはいけないのかを知っていれば勝つ。
二、多勢と小勢、それぞれの用い方を識っていれば勝つ。
三、指導者と国民が同じ目標を持っていれば勝つ。
四、味方の態勢を万全に備えた上で、敵の不備に当たれば勝つ。
五、将軍が有能で、君主が将軍の指揮権に干渉しなければ勝つ。
これら五つが勝利を収めるための条件である。

そこで結論を言おう。敵を知り、己を知れば、百戦しても危険は無い。敵を知らないが、己は知っているというときは勝ったり負けたりする。敵を知らず、己を知らなければ、戦う毎に危険である。」

※原文のキーワード
勝利を見通す…「知勝」、多勢と小勢…「衆寡」、指導者と国民…「上下」、同じ目標…「同欲」、態勢が万全…「虞」、不備…「不虞」、指揮権に干渉しない…「不御」、勝利を収めるための条件…「知勝之道」、敵を知る…「知彼」、百戦して危険は無い…「百戦不殆」、勝ったり負けたり…「一勝一負」、戦う毎に危険…「毎戦必殆」

一、戦っていいのか、戦ってはいけないのかを知っていれば勝つ。
これは、闇雲に出て行けばいいというものではなく、勢いを読み、タイミングを計り、勝機をよく掴まなければならないことを教えています。

二、多勢と小勢、それぞれの用い方を識っていれば勝つ。
こちらが多勢であれば、つい気の緩みが生じ、大軍ゆえの鈍い動きが起こりがちです。そうならないよう、いくつかの部隊に分けて用いるのも方法です。自軍が小勢であれば、正面からのぶつかり合いを避け、小部隊で意表を突き、相手をかき乱すゲリラ戦を用いることが有効になります。

三、指導者と国民が同じ目標を持っていれば勝つ。
同じ目的(理想)のもとに同じ目標を持っていれば、お互いの息が合ってきて一丸となることが出来ます。国家であれば国是や国家目標、会社であれば社是や経営ビジョンが必要な所以です。(続く)