その30 敵を知り、己を知れば、百戦しても危険は無い

「四、味方の態勢を万全に備えた上で、敵の不備に当たれば勝つ。」
これが、勝利を見通すための五カ条の四番目です。「態勢が万全」の原文は「虞」で、「虞」には恐れる、心配するという意味があります。前もって不安な事柄を洗い出し、よく考え、対応を図ることで心配を除き、態勢を万全に整えるのが「虞」なのです。

心配な箇所、不安な事柄というものは、自分から相手を見ているだけでは半分も分かりません。全体から敵味方各所の状況をよく見渡し、相手側からも自分を観てみることによって、初めてどこの何が心配で不安なのかが掴めてまいります。

そうして、味方の備えを整えた上で、「敵の不備に当たれば勝つ」ことになります。「不備」の原文は「不虞」で、恐れるべき事を恐れず、心配すべき点を心配せず、備えを忘れたまま脳天気でいる様子を表しています。その不備な箇所を攻撃するのですから、勝利の可能性は格段に高まります。そういう攻め方を「敵の虚を突く」と言います。

「虚」は、手薄で虚しいところの意ですが、商売であれば世の中が困っている事や、不足しているところという意味にもなります。虚を上手く突けば、市場と顧客の支持を受け、商売が成功することになるはずです。

「五、将軍が有能で、君主が将軍の指揮権に干渉しなければ勝つ。」
勝利を見通すための五カ条の五番目です。君主は、有能な将軍に指揮権を与える。指揮権を与えて任せた以上、現場に干渉しない。そうすれば、命令系統が混乱しなくなって勝てるというのです。

これを補佐役とトップの関係で表せば、下記の4通りがあることになります。1補佐役が有能でトップに人徳がある~最もいい関係であり、組織は発展する。2補佐役が無能でトップに人徳がある~トップに苦労が集中して発展しない。3補佐役が無能でトップが凡庸~衰亡以外に道は無く発展は望めない。4補佐役が有能でトップが凡庸~補佐役が浮いてしまう恐れがある。

孫子が一番求めていたのは、1の有能な将軍が人徳のある君主の下で働ける関係です。しかし、4の場合でも、将軍の指揮権に横槍(よこやり)をさえ入れたりしなければ、戦闘自体は何とかなると考えたに違いありません。

さて「これら五つが勝利を収めるための条件である」として、孫子は結論を言いました。「敵を知り、己を知れば、百戦しても危険は無い。敵を知らないが、己は知っているというときは勝ったり負けたりする。敵を知らず、己を知らなければ、戦う毎に危険である」と。この文中の「知る」の内容は、勝利を見通すための五条件を冷静に観察し、敵味方の実情を的確に掴むということだったのです。(続く)