その31 形勢~攻撃と防御は一体なり!

大した努力もせず、勝利を神頼みしている人をときどき見かけます。今出来る準備が不足し、予(あらかじ)め自分のほうでやっておくべき用意が不十分なまま、相手のミスや失敗に頼っているのです。そういう怠慢さを、孫子はとても嫌いました。勝利の女神は、直ちに去っていくに違いありません。

『孫子』第四は「軍形篇」です。「形」は形勢のことで、まず自軍に負けない形勢をつくり、情勢の変化を注視しながら、敵に勝てる形勢を待てと孫子は教えます。

そして、戦いの形勢というものを考えますと、攻撃と防御が一体であることが分かります。攻めることと守ることを、切り離したり、固定させたりしてはいけないのです。そもそも、防御が出来ているからこそ、勝てるチャンスを見逃さず、間髪入れずに攻撃に転ずることが可能となるわけです。

《孫子・軍形篇その一》
「昔の戦いの上手な人は、まず(相手にとって)勝てない状況を(自分の側に)つくり、それから敵に勝てる状況が(相手側に)起こるのを待った。(相手にとって)勝てない状況をつくるのは己の問題だが、敵に勝てる状況が起こるかどうかは相手次第となる。

そのため戦いの上手な人であっても、(相手にとって)勝てない状況を(自分の側に)しっかりつくるところまではやれても、敵に必ず勝てる状況を(相手側に)しっかり起こすことは出来なかった。

そういうことから(自軍の態勢が整うことによって)勝利を知り得たとしても、その通りに為せるかどうかは(敵の出方次第だから)分からないと言われているのだ。

そこで(相手にとって)勝てない状況をつくるよう防御に努めながらも、いざ勝てる状況になったら攻撃すればいい。防御するのは戦力不足、攻撃するのは戦力に余裕があるときだ。

上手に防御する人は地の極まるところの下に兵力を隠し、上手に攻撃する人は天の極まるところの上で兵力を動かす。そうすれば(敵の目からは形勢が分かり難いから)自軍を保って勝利を全うするのである。」

勝てない状況をつくる…「為不可勝」、敵に勝てる状況が起こるのを待つ…「待敵之可勝」、己の問題…「在己」、相手次第…「在敵」、しっかりつくる…「能為」、しっかり起こすことは出来ない…「不能使」、勝利を知り得る…「勝可知」、為せるかどうかは分からない…「不可為」、防御…「守」、上手に防御する人…「善守者」、地の極まるところの下…「九地之下」、隠す…「蔵」、天の極まるところの上…「九天之上」
※一桁の数(1~9)の最大数である「九」は極まるところを意味し、「九天」は天の極まるところ、「九地」は地の極まるところとなる。