その32 味方同士の心と心に、溝や隙間を生じさせないこと

さて、相手から見て「これは勝てないな」と思う状況を、どうやってつくるかです。その基本は、隙(すき)をつくらないことにあります。

君主と側近、政治家と国民、中央と地方などの間に、隙が生まれないよう注意しなければなりません。戦いにおいては、本国と前線、君主と将軍、将軍と士卒の間に溝があれば、相手につけ込まれる隙間となります。

何より重要なのは心です。味方同士の心と心に、溝や隙間を生じさせないことです。人間は心の動物ですから、「あいつは自分勝手にやるつもりなのだろうか」という疑い、「私を無視するとは何事だ」という憤り、「奴は、どうやら俺を出し抜く気だな」という怒りなどによって、たちまち疑心暗鬼の状態に陥ります。そうして味方同士で反目し合えば、一丸となって敵に立ち向かうことは全く不可能となります。

先にも述べた通り、そうした疑いや憤り、怒りなどを感じる出来事が3件起こると、もうダメです。1回目は何ともなくても、2回目で「あれっ、どうしたのかな」と心に引っ掛かり、3回目で「どうやら変だぞ」となります。

さらに何か気に障(さわ)る事が加わった場合、それが些細(ささい)な事であろうが、ちょっとしたジョークであろうが、もはやトドメでしかありません。部下がトップに疑われてしまえば、トップの頭の中にあるのは、その部下を外したいという否定的な気持ちだけとなるでしょう。

計算高いトップなら、もうしばらく使えるところまで使おうと考えるでしょうが、生真面目一本なトップに嫌われたときは、修復はかなり困難と思うべきです。トップが部下に疑われる場合も、有り様は同じことです。

仕事の苦労は人の苦労、人の苦労は心の苦労です。お互いの心と心に、溝や隙間を生じさせないよう努めなければいけませんが、そのための基本が先に述べた報連相です。お互いの報告・連絡・相談(報連相)が、心の結び付きの基本となります。

これも注意事項ですが、トップに届けられる情報は、偏りがあったりバイアスが掛かったりしている場合が多いものです。普段信頼している部下からの情報であっても、必ず裏を取り、別の部下の意見も聞いてみるなどして確認しておくべきです。

経営の神様・松下幸之助翁は、幸之助直属の社員(経理社員)を各事業部や支社に配置し、彼らを耳目とすることで正確な情報の収集に努めました。経理社員は、採用から研修に至るまで一般社員とは別個に扱われ、事業部長や支社長の決定に対して拒否権を発動出来たのだそうです。

相手から見て勝てない状況、言い換えればこちらが負けない状況をつくるのは、こうして己の側で努力すべき課題です。この己の問題をきちんとした上で「敵に勝てる状況が起こる」のを待つわけですが、そこは「相手次第」であるから、いくら「戦いの上手な人であっても」「敵に必ず勝てる状況をしっかり起こすことは出来なかった」ということになるのでしょう。

「負けない努力」によって、これならきっと勝てるだろうと思えるところに至ったとしても、本当に「その通りに為せるかどうか分からない」ところに戦いの難しさがあるという次第です。

そこでどうすればいいかというと、まず相手から見て「勝てない状況をつくるよう防御に努める」ことです。そして、こちらから見て「いざ勝てる状況になったら攻撃すればいい」のであり、とにかく戦力不足のときは防御に努め、戦力に余裕が出てきたら攻めるという、ごく当たり前のことが心得となっております。(続く)