その38 大局の誤りは中局では救えず、中局の誤りは小局では補えない

「大局の誤りは中局では救えず、中局の誤りは小局では補えない」。これは、筆者が大局観の必要性について話すときの言葉です。

例えば、運動場にラインを引くときは、50メートル以上の巻き尺を用います。部屋の中に家具を入れるときは、数メートルのメジャーを壁に当てます。デスクワークで帳面に線を引くときは、20~30センチの物差しを使います。

それぞれに合った「はかり」があるわけですが、もしも運動場のラインが曲がったときに、数メートルのメジャーを用いたところで短過ぎて直せません。部屋に大きな家具が入るかどうかを確認するときに、数十センチの物差しを当てていたら、やはり小さ過ぎて誤差が生じてしまいます。そこに、大局観の必要性の理由があります。

まさに、はかりが勝敗を決することになるのであり、何に対して、どのはかりを当てるべきかについて、孫子は的確に述べております。そして、はかりがきちんと機能すれば、蓄水が一気に落下するように勝利を収めることが出来るようになるとのことです。それが形勢の意味というわけです。

《孫子・軍形篇その三》
「戦上手は、政道を修めてから軍法を保つ。それで、しっかりと勝敗の態勢を整えていく。

兵法(の要素)は、第一に度(たく)、第二に量、第三に数、第四に称(しょう)、第五に勝(しょう)にある。そして、地は度を生じ、度は量を生じ、量は数を生じ、数は称を生じ、称は勝を生ずる。

勝利を収める軍隊は、重たい物で軽い物と比べるようなものである。負ける軍隊は、軽い物で重い物と比べるようなものである。

勝利者が人民を戦わせるのは、蓄積された水を千仞(せんじん)の谿(たに)に切って落とすようなもので、それが形勢なのだ。」

※原文のキーワード
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