その40 戦争を未然に防ぎ、国家を存続させる基本

続いて孫子は「地は度を生じ、度は量を生じ、量は数を生じ、数は称を生じ、称は勝を生ずる」と述べました。

「地」は、国土の広さや戦地への距離です。それを計測(度)すれば、確保出来る資源・食糧や投入すべき物資の「量」が読め、そこから養える人口と動員可能な兵士の「数」が分かります。その上で戦力の優位性(称)が定まってくれば、勝利(勝)が見えてくるという次第です。

そして、孫子が求めるのは「安全な勝利」です。それは、用意周到な準備に基づく「万全な勝利」のことです。安全で万全な勝利は、「重たい物で軽い物と比べるようなもの」とのことです。「重たい物」の原文は「鎰(いつ)」、「軽い物」の原文は「銖(しゅ)」で、前者は後者の約500倍の重さがあります。「勝利を収める軍隊は」「鎰」で「銖」を相手にするようなものであり、「負ける軍隊は」その逆になります。

また、水の勢いにも例えました。「勝利者が人民を戦わせるのは、蓄積された水を千仞(せんじん)の谿(たに)に切って落とすようなもの」だと。蓄積された水は原文では「積水」で、「千仞の谿」は非常に深い谷のことです。満々とたたえた水を、落差のある谿に向かって一気に落とすのですから、相手はひとたまりもありません。

そうして、「それが形勢なのだ」という言葉で軍形篇を締め括りました。原文では「形也」です。

我々は「勝負は戦ってみないと分からない」とよく口にします。戦闘開始のゴングが鳴ってからが勝負であると思っていたり、いざというときが来たら戦えばいいが、それまでは何もしなくて構わないと考えていたりもします。

ところが、そういう脳天気な態度こそ、国家を滅ぼす主因となるものです。企業が倒れるのも、概ね同じ気の緩みからでしょう。

常に侵略されない「形勢」の構築に努め、もし戦いになっても簡単には負けない「形勢」を整備しておけば、相手にとっては重たいリスクとなります。それが戦争を未然に防ぎ、国家を存続させる基本となるわけです。(続く)