その43 指揮系統は、紙に書いた組織一覧表のことではない!

「指揮系統」は、原文では「形名」です。形名の「形」は目に見えるもので、具体的には旗や幟(のぼり)のことです。「名」は言い表すこと、即ち音に出す号令のことで、耳に聞こえる鐘(かね)や太鼓の音がそれです。目に訴えることで高揚感を起こし、耳に響かせることで士気を高め、全員の動きを整えてまいります。

指揮系統は、紙に書いた組織一覧表のことではありません。組織編成が出来上がっただけではダメで、実際に動く仕組みとならねば指揮系統とは言えないのです。

軍隊では、旗や幟、鐘や太鼓が、兵士を動かす指揮系統に必須の用具となりました。旗や幟は単なる飾り物ではなく、鐘や太鼓も、ただの賑やかしの音ではありません。それらは、目と耳に刺激を与える「神経の伝達物質」のような作用を起こし、それによって兵士らは、しっかり息を合わせて動けました。

今日の会社や団体も、生きた活動体となるよう指揮系統を定め、形名を整えねばなりません。現代では・我が社では、一体何が旗や幟、鐘や太鼓に相当するのかをよく置き換えて、息を合わせた活動を起こして欲しいものです。

そもそも息を合わせて仕事をするのは、日本人の基本形でした。日本刀を鍛える際は二人の刀工が、相撲を取るときは二人の力士が、餅をつくときはつく人と捏(こ)ねる人の二人が、それぞれ息を合わせて動作します。音楽も、西洋音楽のオーケストラは指揮者が必要ですが、日本の雅楽は楽師が息を合わせて演奏しますから指揮者が要りません。陸上のリレー等にも見られるように、連係プレーで息を合わせ、勝利を収めるのは日本人のお家芸なのです。

そして、孫子は「全軍の大勢の兵士が、敵軍の攻撃を受けても決して負けないのは、奇法と正法(の用い方)によっている」からで、「兵力を投入するのに、石を卵に投げ込むかのようであるのは、虚実を捉えているからだ」と続けます。

この文中の「奇法」と「正法」は、次の「兵勢篇その二」で解説します。それから「虚実」の「実」は自軍の戦力が充実している状態、「虚」は敵が手薄な状態であることを指しており、実で虚を攻める様子を、石で卵に打撃を与えているようだと比喩(ひゆ)したのです。(続く)