その48 速さと勢い、それを一瞬のチャンスに注げ!

物理学に「運動エネルギー」という言葉があります。運動している物体が何かに当たったときに、相手を動かしたり変形させたりするエネルギーのことです。

運動エネルギーは、物体の質量(重さ)が増えるほど大きくなり、運動の速度が速くなるほど大きくなります。その際、運動エネルギーは物体の質量に比例し、速度の二乗に比例します。重さが倍になればエネルギーも2倍になるのに対し、速さが倍になればエネルギーは4倍になるというのですから、とりわけ速度が重要になることが分かります。

孫子は、この物理学の法則をよく掴んでおり、速さの大切さを述べていました。

《孫子・兵勢篇その三》
「激しい水流の速さが、石を漂わせてしまう。それが勢いだ。猛禽(もうきん)の一撃が(獲物を)打ち砕く。それが節目(の効力)だ。

こういうことから戦いの上手な者は、その勢いを険しくし、節目を一瞬に集中させる。勢いは石弓を張るときのようなものであり、節目はその引き金を引くときのようなものである。」

※原文のキーワード
激しい水流…「激水」、速さ…「疾」、猛禽…「鷲鳥」、一撃…「撃」、打ち砕く…「毀折」、節目…「節」、戦いの上手な者…「善戦者」、一瞬に集中…「短」、石弓…「弩」、張る…「?」、引き金…「機」、引く…「発」

河川の水は、普段は静かに流れますが、大雨の後の激流ともなれば「石を漂わせてしまう」ほどの大きなエネルギーを持ちます。その水量(質量)の多さと、流れの速さが相俟(あいま)って「勢い」を形成するのです。

「猛禽」は鷹(たか)や鷲(わし)など動物を捕食する鳥のことで、鋭い爪を備え、掴む力の強い足と、鉤形(かぎがた)に曲がった鋭い嘴(くちばし)を持っています。その獲物目がけて急降下する威力は凄まじく、一撃で相手を打ち砕いて捕らえます。

「それが節目(の効力)」です。「節目」は何かというと、一瞬の区切りのことです。猛禽類の捕食活動では、獲物を発見して捕える際の一瞬のチャンスが節目となります。(続く)