その54 衰亡の芽は好調なときに生ずる

両軍がぶつかり合う戦闘では、双方の兵士が入り乱れていき、敵味方の見分けが付きにくくなってしまう場合があります。しかし、そのままではいけません。個々バラバラな戦いにならないよう注意し、とにかく味方を分散させないことです。こちらの隊形が崩れさえしなければ、決して負けることは無いのです。

会社も同じです。社員一人一人が任された業務を全うするのは当然として、それと同時に、自分の部署だけでなく会社全体をよく理解し、社員一丸となって連携出来る環境を創らねばなりません。単なる個人戦の寄せ集めではなく、組織として戦える集団的結束力を起こせということです。

チームプレーが要求されるスポーツなら尚更(なおさら)で、陣形をより維持出来たほうが、結果として勝利を収められます。逆に言えば、相手の陣形を崩すところに勝利へ向かう道があるということです。

そして、孫子は東洋思想家らしく、物事を陰陽循環で捉えました。陰極まれば陽に転じ、陽極まれば陰に転ずるという循環論です。

陰陽循環論を兵法に置き換えれば、軍隊の「乱れは治まりから生じ、怖(おそ)れは勇ましさから生じ、弱さは強さから生じる」ということになります。

よく治まっていても、次第に気の緩みが起こり、やがて乱れてくるのが組織の性(さが)です。勇気を奮って勝利が続いているうちに、ある頃から敗北したときの惨めさを怖れるようになるのが人間の心理です。強大を誇った勢力も、繁栄の奢(おご)りから軟弱化してしまうのが歴史の事実です。

人も組織も、守るものを持ち過ぎると前に向かう積極性を失います。成功体験が続くほど、創意工夫が失われます。システム疲労や、平和ボケ、慣れから来る気の緩みなども同じことで、衰亡の芽は好調なときに生ずるものです。(続く)