その61 戦いの火蓋(ひぶた)が切られる前の駆け引きが重要!

孫子は「先に戦地に到着して敵を待てば楽だが、後から戦地に到着して戦いに向かうと苦労する」と述べました。何事であれ、先に到着すれば有利なポジションを取れます。戦闘であれば尚更で、先着して敵よりも高い位置に布陣すれば、下(くだ)りながら勢いを付けて攻撃することが出来るのだから断然有利となります。

その上で「戦いの上手な者は、相手を(こちらの思うところに)誘い出すが、相手(の思うところにこちらが)に誘い出されることはない」よう留意します。

戦いは火蓋(ひぶた)が切られて始まるのですが、その前の駆け引きがとても大切です。こちらの望むところへ、いかにして相手から仕掛けさせるか。また、うっかり相手の仕掛けに乗せられないよう注意するかと。

では、どうやって相手を引き出すかというと、それは「利益で誘う」ことになります。相手の欲するところ(本心)を見抜き、それに応じて餌(えさ)を置く。あるいは、わざと攻め易そうな箇所をつくり、そこへ敵を誘導するのです。

それから、敵の「攻撃しようとする心」を挫(くじ)くことも重要で、如何にして相手の気持ちを萎(な)えさせて動きを封じるかです。そのためには、攻めたら損害が大きいと思わせることが有効で、リスクを予想させることで攻撃を諦めさせます。

孫子はまた「敵が休んで安楽ならば疲れさせ、飽きるほど食べていれば飢えさせ、落ち着いて安定していれば動揺させよ」と教えました。これらも、戦いの火蓋を切る前の心得です。

休養十分で体力旺盛、食糧十分で飢えていない、勝利を信じて精神が安定。こういう敵と戦うのは難儀します。そこで、いつどこから攻めて行くか分からない状況をつくり、頻繁に攻撃を仕掛けては敵軍を移動させ、食糧の調達ルートを絶つことで敵兵の体力を削いでいきます。そうすれば、敵軍は不安感で覆われていき動揺することになるのです。

孫子の時代と現代とでは、兵器の技術が比べものになりません。でも、戦うかどうかを決めるのが人間であるということに変わりはありません。人間が主役である以上、心理戦を忘れてはならず、心理戦の重要性を説いた思想家として、孫子の教えは今も色褪せることがないのです。(続く)