その65 余分な力は抜いたまま、素早くシュッと打つ!

「エイッ!」と打ち込んだ拳を、サッと引きながら後ろへ下がる。一瞬の隙を捉えて勢い良く打ち込んだら、素早く下がりながら引き手を取るというのが、(全日本空手道連盟など伝統系)空手道が教える突きの要領です。その際、もう一方の腕は防御のために前にかざします。

突きやパンチというものは、ドスン、ドスンという、いかにも重そうな打ち方では、相手をノックアウトする威力は起こりません。そうではなく、余分な力は抜いたまま、素早くシュッと打つときに一撃で相手を倒す力が生まれるのです。

こうした空手道の教えと似ていることを、孫子が説いていました。敵がこちらの攻撃を防げなくなるときは、その虚、つまり弱点や手薄なところ、防御(ガード)が空いているところなどを衝(つ)いているときだと説明します。それと共に、こちらが退却するときに敵が追い付いて来られないのは、こちらの引きが素早いため追撃出来ないからだと。

空手道の本来の凄さは、一撃必殺にあるのだそうです。相手の虚を狙って一本打ち込んだら、拳をサッと引きながら後ろへ下がるというのは、まさに孫子の兵法に通じる空手道の基本なのでしょう。

《孫子・虚実篇その三》
「進撃したときに防げないというのは、敵の虚を衝いたからだ。退却したときに追い付けないというのは、素早くて追撃が及ばないからだ。

そこで、こちらが戦おうと欲するときは、敵が土塁を高くし、堀を深くして(防御を固めて)いても、こちらと戦わざるを得なくさせてしまうのは、相手が必ず救援を出さなければならないところを攻めていくからだ。

こちらが戦いを欲しないときは、地面に線を引いた程度の守りであっても、敵はこちらと戦えないというのは、敵の向かうところをそらせてしまうからだ。」

※原文のキーワード
進撃…「進」、防げない…「不可禦」、敵の虚…「其虚」、退却…「退」、追い付けない…「不可追」、素早い…「速」、追撃が及ばない…「不可及」、こちらが戦おうと欲する…「我欲戦」、土塁…「塁」、堀…「溝」、していても…「雖」、こちらと戦わざるを得ない…「不得不与我戦」、相手が必ず救援を出さなければならないところ…「其所必救」、こちらが戦いを欲しない…「我不欲戦」、地面に線を引いた程度の守り…「画地而守」、敵はこちらと戦えない…「敵不得与我戦」、敵の向かうところ…「其所之」、そらせる…「乖」(続く)