その67 敵軍は分散させ、自軍は集中させよ!

本篇は「虚実篇」といい、「虚」は空虚、「実」は充実を意味します。戦いに勝つためには、敵を空虚にし、味方を充実させる必要があります。充実した軍が空虚な軍を攻めれば、勝利は間違い無しとなるでしょう。

では、どうしたら敵が虚、味方が実という状況をつくれるのでしょうか。平凡な答は、味方の兵力をどんどん増やせばいいというものですが、限られた国庫の中で軍事力に使える費用には、自ずと限りがあります。それに、敵だって真剣になって戦いに備えていますから、虚実の状態を明確につくることは簡単ではありません。

そこで孫子は、敵軍は分散させ、自軍は集中させよと説きました。両軍の力に差は無くても、相手を分散させれば虚となり、味方を集中させれば実となるのです。その心得を学んでいきましょう。

《孫子・虚実篇その四》
「敵を形(けい)せしめ、こちらは形が無い。そうすれば、こちらは専(もっぱ)ら一つと為れるが、敵は分かれて十と為ってしまう。これにより、十倍の力で一(に過ぎない敵)を攻められる。

則ち、こちらは大勢(おおぜい)だが、敵は小勢(こぜい)だ。大勢で小勢を攻撃すれば、こちらが戦うことになる相手は少なくなる。

また、こちらが戦うところとなる場所を知られてはならない。知られなければ、敵の備えねばならない場所が多くなる。敵の備えねばならない場所が多くなれば、こちらが戦うことになる相手は少なくなる。

そこで、前に備えれば後ろが少なくなり、後ろに備えれば前が少なくなり、左に備えれば右が少なくなり、右に備えれば左が少なくなり、備えていないところを無くそうとすれば、(どこも手薄になって)少なくないところは無くなってしまう(=少ないところばかりになってしまう)。

小勢となってしまうのは、敵に備えねばならないからだ。大勢になれるのは、相手にこちらへの備えをさせるからなのだ。」

※原文のキーワード
敵…「人」、こちら…「我」、十倍の力…「十」、大勢…「衆」、小勢…「寡」、こちらが戦うことになる相手…「吾之所与戦者」、少なくなる…「約」、こちらが戦うところとなる場所…「吾所与戦之地」、知られない…「不可知」、敵の備えねばならない場所…「敵所備」、こちらが戦うことになる相手…「吾所与戦者」、備えていないところを無くそうとする…「無所不備」、少なくないところは無くなってしまう…「無所不寡」、敵に備える…「備人」、相手にこちらへの備えをさせる…「使人備己」(続く)