その68 敵に、こちらの攻撃目標を覚らせるな!

こちらから相手がよく見えるが、相手からはこちらが見えない。孫子は、その様子を「敵を形(けい)せしめ、こちらは形が無い」と表現しました。敵は「形」があるが、こちらには「形」が無いと。

形はハッキリした態勢、つまり固定化された状況のことです。敵軍は形に填(はま)っているので動きがよく見えますが、自軍には形が無いので固定化されておらず掴み所がありません。

そのため「こちらは専(もっぱ)ら一つと為れるが、敵は分かれて十と為って」しまいます。自軍は固定化されていませんので、必要なところに全体を一つに集中させることが出来ますが、敵軍は形式に囚われており、多方面(十)に分散させたままの状態から身動きが取れません。

そうなりますと「十倍の力で一(に過ぎない敵)を攻められる」ことになり、一つ一つを潰していく各個撃破によって勝利を収めることが可能となります。

「則ち、こちらは大勢(おおぜい)だが、敵は小勢(こぜい)」という状態が各個につくられます。そうして「大勢で小勢を攻撃すれば、こちらが戦うことになる相手は少なく」なります。これが、敵を虚、味方を実にするための基本です。

では、この敵を十に分散させるという虚実を実行するにはどうしたらいいかというと、「こちらが戦うところとなる場所を知られ」ないようにすることが肝腎です。こちらの攻撃目標を「知られなければ、敵の備えねばならない場所が多く」なります。それによって「こちらが戦うことになる相手は少なくなる」というわけです。

そうして敵は「前に備えれば後ろが少なくなり、後ろに備えれば前が少なくなり、左に備えれば右が少なくなり、右に備えれば左が少なくなり」ます。また、頑張って「備えていないところを無くそうとすれば」全部が手薄になってしまい、防備の「少ないところばかりになってしまう」のです。

こうして防戦一方に回ってしまうことの難しさは、敵への備えに熱心に取り組むほど、小勢(手薄)になってしまうところにあります。一方「大勢になれるのは」、攻撃目標を覚られないことによって「こちらへの備えを」分散させていった結果なのです。(続く)